生麩(なまふ)で漉し餡を包み、熊笹や山帰来(さんきらい)などの香りに富んだ葉で包み込んだ饅頭である。冷やして食べるとおいしい。生麩とは、小麦粉に水を加えてこね、さらに水中で揉むことによって澱粉質だけを取り除き、残った麩質(グルテン)を蒸したり、茹でたりしたものである。むっちりと腰はあるが、これ自体には粘りは少なくつるっとした食感なので、麩饅頭の場合には餅粉を混ぜ、生地をもっちりするようにつくられる。草餅のように見える緑がかった色は青のりによるもので、この生麩特有の強い風味を、熊笹の香りや餡の甘さとともにいただくと癖になる。

 麩饅頭の発祥は、和菓子店ではなく、麩の専門店である麩嘉(ふうか、上京区)だといわれ、麩嘉饅頭と呼ばれることもある。発祥に関する資料は消失してないそうであるが、明治期に御所へ納めるために考案したというのが定説であり、一説に、生麩が好きだった明治天皇のアイデアによってつくられたともいわれている。また、生麩は豆腐同様に、成分のほとんどを水が占めるため、水の善し悪しが味を決める食材である。麩嘉の立地は平安期から京の名水として名高い「滋野井(しげのい)」が湧いていた場所である。今日使われている水は、枯れかけた古い井戸を掘り直し、名水の水源を受け継ぐ新たな水脈の地下水によってつくり続けられている。


麩嘉の麩饅頭。青海苔と熊笹の清涼感ある風味が暑い夏によく合う。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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