7月の京都は祇園祭があるので、町中がほぼ1か月にわたって浮き足立っている。旬の料理は鱧(はも)であるが、京都の祭りといえば、鯖ずしが一番である。古くから京都の人が珍重してきた名物であり、関西一円では、棒ずし、バッテラ、姿ずし、押しずしなどとさまざまな名称で呼ばれ、ずっと愛され続けてきた料理である。

 鯖に軽く塩を振って一晩ほど置いたものを一塩(ひとしお)といい、鯖ずしはこの一塩の鯖でつくる。鯖を昆布と一緒に酢につけて締め、それを棒状に延ばした飯のうえに載せたら上から昆布を巻き、竹皮で包み込む。昆布は表面の乾燥を防いでくれるとともに、鯖に振られている塩とあいまった絶妙な旨味を、飯の中に含ませる。だから鯖ずしには、にぎり鮨のような醤油や薬味はいらない。酢で好みの加減に締めてあるものを、そのまま味わうのがおいしいのである。

 近世随一の学者として名高い新井白石は、スシの「『ス』とは醋(=酢)なり。『シ』は助詞なり。魚を蔵するに飯と塩とを以てし、その味の酸を生ぜしものなればかく名づけしなり」と語ったそうだ。元来、魚の貯蔵法の一つとしてスシがつくられたとすれば、若狭(福井県)で浜塩をして鯖街道(若狭街道)を一路、京へ運ばれていた鯖は、いつしか保存のために飯と出会った。そして、保存食としてのスシへ、さらに美食のスシへと姿と味を変えていったわけで、一種の究極のスシともいえるような遍歴から完成した伝統食なのである。


鯖街道沿いのお店で買った、家庭風でご飯が多めの鯖ずし。鯖がしっかりしめてあるので、誰にでも食べやすくおいしい。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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