「母親を失った喪失感」を「母ロス」と称することがある。2014年5月、NHKの番組『あさイチ』で取り上げられ、それがネット上でも共感を持って語られたことから、いわゆる「急上昇ワード」となった。

 ここでいう「母ロス」とは、母の死によって起こる娘としての感情であり、基本的に息子が陥るものでないところに注目したい。男性はよく「永遠のマザコン」と呼ばれ、母との生活習慣を自分の伴侶にも要求するなど、その「ザンネンさ」を笑われてしまうものだ。しかし、肉親の死などのヘビーな苦しみも受け入れて、立ち直りが早い。それは、もしかしたら男性が「単純」であるからかもしれない。

 一方、母と娘の関係というものは、じつにややこしい。母としてたいせつに育てているつもりが、「抑圧的」といった状況を生み出している場合がある。娘としては、自分なりの生き方をしたいのだが、母が自分にどんな期待を寄せているかも理解している。事実、いろんな人生の岐路で母の生き方がちらついているが、そんな胸の奥も知らず、母たちは「わかっていない」娘に思い悩むのだ。こうした「ずれ」は、やがてドロドロした感情になっていく。もちろん、姉妹のように仲が良い親子もいるわけだが、母に支配されているようで苦しかった、という生々しい娘たちの声は多い。

 こじれた関係のまま母親が亡くなると、「希望通りの娘になれなかった」という「罪悪感」にもつながってしまう。同性として近いからこそ、肉親として結びついているからこそ生まれる、ムズカシイすれ違い。こうした「母ロス」と向き合うのは、女性にとって容易なことではない。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
ジャパンナレッジとは 辞書・事典を中心にした知識源から知りたいことにいち早く到達するためのデータベースです。 収録辞書・事典80以上 総項目数480万以上 総文字数16億

ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。 (2024年5月時点)

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る