このわずか1か月半の間に知名度を増した、「美魔女」ならぬ「美魔男」という言葉。「美魔女」は、雑誌『美STORY』(現・『美ST』、光文社)の定義によれば35歳以上の美しい女性を指す。これにのっとるなら「美魔男」も30代後半からの「美しい男性」ということになりそうだが、どうも実際のところ違う。肌の手入れに気を使い、実際に肌はつるつるなのだが、(失礼ながら)必ずしも「イケメン・モテメン」ではない。むしろ、「ナルシスティック」のニュアンスで使われることが多いようなのだ。

 「美魔男」が広まった経緯は次のようなものである。辻仁成(つじ・ひとなり)と中山美穂が、すわ離婚かと騒がれた4月17日のこと。フジテレビ系の情報番組『ノンストップ』が、騒動に引っかけて「美魔男」を取り上げた。一連のごたごたは、辻の「中性化」に中山美穂がついていけなくなったから、という「説」を受けてのものだ。番組では「女装する男性たち」や、ロックバンドLUNA SEA(ルナシー)の真矢(しんや)がスキンケアにこだわっているという情報も紹介された。さほど多くはない事例を「現象」として誇張する、いかにもワイドショー的な切り口といえるだろう。

 この「夫が急激に変貌する悲喜劇」は、視聴者にかなりのインパクトを持って迎えられたようだ。夫の加齢臭や中年太りも、決して好ましいものではない。しかし、その対極にある「美魔男化」だって、なんと反応していいものか。現代における中年男性は、若いころから小ぎれいにする生活習慣ができているだけに、女性にとっては「ありえる家庭の危機」と受け取られた模様。「美魔女」たちが騒がれる現代でも、女性の皆が皆「美」にお金をかけているわけでなく、「私よりも美しさにこだわるなんて……」と困惑しているわけだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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