5月23日、難病の医療費助成や調査研究の推進などを定めた「難病の患者に対する医療費等に関する法律」(難病医療法)が参議院本会議で可決、成立した。長きにわたり、難病対策の法制化に向けて奔走してきた人々の努力が結実した瞬間だった。

 難病は、原因不明で効果的な治療法が確立しておらず、少なからず後遺症を残すおそれがある。患者数も少ないため、治療研究もなかなか進まない。そこで、「難治性疾患克服研究事業」に指定された難病については、国が費用を負担し、原因の究明、治療法の研究などが行なわれており、現在は130疾患が研究対象となっている。その中でも、とくに治療が困難で、医療費が高額になる病気については、「特定疾患治療研究事業」として、医療費の自己負担分が助成されることになっている。現在、この医療費助成を受けられるのは、ベーチェット病、潰瘍性大腸炎など56疾患のみだ。

 だが、世界中にある希少性疾患は5000種類とも、7000種類とも言われている。同じように病気の苦しみと闘う難病患者でも、国が決めた対象疾患でなければ、医療費助成を受けられない状況にあった。

 背景にあるのが財源問題で、これまで難病対策は法的根拠のない「事業」として行なわれてきたのが理由のひとつだ。本来、難病対策にかかる費用は国と都道府県が半分ずつ負担することになっていたが、予算措置が曖昧なために、国は4分の1しか負担していない。不足分は都道府県の予算から捻出することになるが、財政が厳しい自治体は十分な難病対策をとれないのが実情だ。

 きちんとした予算措置をするには、根拠となる基本法が必要になる。そこで、民主党政権下で難病対策の法制化の動きが強まり、昨年12月に成立した「社会保障制度改革プログラム法」で実施時期が明記された。そして、今国会で「難病医療法」成立。実に制度が誕生してから42年ぶりの抜本改革となった。

 法律の成立を受け、医療費助成を受けられる疾患は、現状の56から300程度に広がる見通しだ。また、70歳未満の難病患者の医療費の自己負担額は、3割から2割に引き下げられる。ただし、症状の軽い人は対象から外し、これまで自己負担がなかった重症患者にも一定の負担を求めることになった。負担の上限額は、患者の症状や所得に応じて異なるが、最高でも月3万円に収まるように配慮されている。

 難病医療法では、医療費助成のあり方だけではなく、治療のための調査や研究の推進、難病相談支援センターの設置や訪問看護の拡充等の、療養生活環境整備事業の実施についても決められた。具体的には、都道府県に難病の拠点病院を置いて、指定医が症状を診断する。臨床データを集約して、今後の治療法の確立に役立てる仕組みだ。

 実施は来年1月からで、それまでに対象となる疾患を決めて、順次医療費助成が行なわれるようになる。

 制度改革によって、これまで自己負担のなかった患者からは不満の声も聞かれるが、対象疾患が広がったことで救われる患者もいる。なによりも法制化によって明確な予算措置が行なわれることになったのは、安定的な難病対策を行なっていくうえで重要な進展となった。今後も修正を重ね、ひとりでも多くの難病患者が救われる制度への進化を願いたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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