私は「成人病の宝庫」だ。30代半ばに作家の嵐山光三郎さんに誘われて行った医者のところで、ついでに計ってもらった血圧が220もあった。医者のほうがうろたえ、その日から降圧剤を飲み続けている。

 血糖値も空腹時血糖が150、HbA1c(過去1~2か月間の平均的な血糖レベル)は6.1で、ずっとクスリを服用している。20年ほど前の某深夜、飲み過ぎて路上でへたり込み、仕方なく救急車を呼んで見てもらった医者が、あきれ顔で「血圧と血糖が高いのとガンのどちらかを選べといわれたら、私はガンのほうを選ぶ」といわれた。要はおまえは長生きできないということである。

 一つだけ自慢したいことがある。クスリを飲んでいることもあるが、40代後半からゴルフを始めたら血圧が劇的に下がり、今は上が130、下が70で落ち着いている。

 そんな私だから毎年受けている人間ドックの数値は普通の人以上に気にかけている。だから今回出された日本人間ドック学会の「新基準」(150万人を対象に行なった共同研究に基づいたもの)には驚いた。

 血圧は147以下(従来は129=以下同じ)、空腹時血糖は男性114、女性106(男女ともに99)以下、γ-GTPは男性84、女性40(男女ともに50)以下ならOKだというのである。この大幅な“緩和”の意図はどこにあるのか。『週刊現代』(5/10・17号、以下『現代』)で読み解いてみよう。

 フジ虎ノ門健康増進センター長の斉尾武郎(さいお・たけお)氏は、これまでは製薬会社や医療業界が、たいした病気でもないものを重病だといって高額治療やクスリを売らんがための“押し売り”だったと批判する。その証拠に、日本で製薬会社が抗うつ剤を発売した直後から、うつ病患者が急増したのがその典型例だという。

 医療ジャーナリストの富家(ふけ)孝氏も、欧米の血圧の基準値は、今回の学会が出した数字よりも高いとし、人口の3分の1が高血圧患者なんてバカな話はないと憤る。

 「医師や研究者、製薬業界が手を結び、病気を作り上げ、医療費を肥大化させてきたことは、これでお分かりいただけただろう」(『現代』)

 だが、この新基準値を鵜呑みにしてはいけないともいっている。患者を増やして儲けたい連中もいれば、できる限り医療費を減らしたいという連中もいるからだ。

 高齢化が急速に進み65歳以上にかかる医療費はこれからも増え続けるのは間違いない。なかでも高血圧とそれに関係する虚血性心疾患や脳血管疾患などの治療費は全体の32.6%にもなるそうだ。

 人間ドックの基準値を甘くして2次検査に回る人数を少なくし、検査の保険料を削減しようと考える厚生労働省の思惑と、今回の新基準値が重なったのではないか、そう“推理”する医師たちも多くいるようである。

 業界や役人たちの思惑で健康の物差しがコロコロ変わるのでは、私のような患者は何を信じどう対処したらいいのだろうか。

 『週刊文春』(5/08・15号)は長年「医療の常識を疑え」と患者に対する啓蒙を続けている近藤誠氏(近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来主宰)に「降圧剤で殺されないための5つの心得」を語らせている。

 「これまで、高血圧患者は実際よりはるかに多く“作られて”来ました。たとえば2000年以前の高血圧の基準値では、『上(収縮期血圧)は160以上、下(拡張期血圧)は95以上』だったのに、日本高血圧学会はこの基準値を『上は130以上、下は85以上』に引き下げた。これにより、2000年以降は『上が130以上で160未満』の人たちが高血圧患者にされ、新たに薬を飲むことになったのです。
 もちろん、上の血圧が200に近いような人は血圧の低い人に比べれば確かに様々なリスクが高い。心筋梗塞や脳卒中、脳神経障害などを発症しやすいと言えます。頭痛やめまい、意識障害などの自覚症状がある場合は、速やかに治療を開始するべきでしょう。
 ただ、自覚症状もないのに『高血圧なので治療をしましょう』と言われて薬を飲まされる人があまりにも多い。しかし、血圧を薬で130まで下げるとむしろ、脳卒中などのリスクが高まるんです」

 近藤氏の主張が今回の新基準で裏付けられたようだが、氏は「本来はこんな基準範囲など意識する必要はない」として、無駄な高血圧治療を受けずに済むために知っておくべきことを5つ上げている。

(1)高血圧の方が長生きできることを知る。
「血圧の高い高齢者の方が低血圧の人より体が強く、元気なんです。寿命も長くなるはずです」。実際、「高血圧=長生き」を示すデータもあるという。
(2)副作用の怖さを知っておく。
(3)血圧を下げても病気発症リスクは変わらない。
(4)「上が147までOK」も疑え。
(5)検診に行かないこと。

 そして近藤氏はこう指摘する。

 「患者や家族自身も、もっと勉強して賢くなる必要があるのかも知れません。ドクターが何を操作し、どんな指標を意図的に使い、何を“語らないのか”を知る事です。そして自覚症状がない人はあらゆる検査や人間ドックを受けない事。これまでの基準はもちろん、新基準範囲も自分で疑って欲しい。正しい知識は受け身では得られないはずです」

 健康こそ自己責任である。わかっちゃいるんだがね~。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

今週は女性を取り上げた記事を3本選んでみた。

第1位 「竹下景子とその時代」(『週刊現代』5/10・17号)
第2位 「病室に届いた美智子さまのスープ」(『週刊朝日』5/9・16号)
第3位 「昭和の女優は美しい」(『週刊ポスト』5/9・16号)

 3位はポストの袋とじ。中に入っている小雑誌を開けると写真家・早田雄二氏が撮った女優たちが微笑みかける。原節子、久我美子、中原ひとみ、池内淳子、大原麗子など18名の美女たち(まだご存命の人もいるが)のすばらしい肢体を堪能できる。吉永小百合がいないのは不満だが、昭和を彩ったオンナたちは日本の「美の遺産」に指定してもいいのではないか。

 私が一番好きな女性を上げろといわれれば吉永小百合をおいてほかにないが、美しさでいえば、子どもの頃に見た皇太子とのご成婚当時の美智子さんが今でも一番だと思う。

 綺麗な上に気品があった。そんな美智子皇后のいい話が『朝日』に載っている(第2位)。
 皇族方の帽子デザイナーとして知られる平田暁夫(あきお)さんが先頃亡くなった。享年89歳。
 平田さんが病室で美智子さんの帽子を完成させ、妻の恭子さんがそれを持って御所へ伺うと、「入院する平田さんに飲んでほしい」と特製のコンソメスープを手渡したという。
 それをいただいて恭子さんが病室へ持っていくと、何も食べられなくなっていたはずの平田さんが一口、二口含んで、嬉しかったのか急にしゃべり出したというのだ。それから5日後、平田さんは亡くなった。

 今週の第1位は竹下景子。彼女1953年生まれだから還暦になるはずだが、テレビで時折見かける彼女は往時の「お嫁さんにしたい女優No.1」の面影を残している。
 『現代』はその彼女を奪い取った羨ましいカメラマン・関口照生(てるお)氏が撮った“秘蔵写真”をカラーグラビアで組んでいる。
 親しい仲でなければ撮れない表情やセクシーポーズが何ともいえずいい。私は1975年に黒木和雄監督の『祭りの準備』に出た竹下を見て、大胆ではち切れそうなヌードに感激した記憶がある。
 『北の国から』では田中邦衛の元妻(いしだあゆみ)の妹・雪子を演じ、忘れられない感動を与えてくれた。
 手を伸ばせば届くところにいるような可愛くて気立てのいい女の子。実は亭主の関口さんとは大橋巨泉さんの会で隣り合わせになったことがある。
 一見、優しいが、失礼だが、あまり男としての魅力があるとは思えない人のように思えた。なぜこんな男に景子が惚れたのか? やや嫉妬めいた気持ちもあったが、少し話してみると素敵な魅力を持っている真っ直ぐな人だということが伝わってきた。やはり彼女には見る目があったのだ。
 毎年、彼が撮った写真をあしらった葉書を束ねたものを送ってくれる。竹下景子は女優としても存在感を示し、夫と二人の男の子に恵まれ、家庭人としても幸せな人生を送っている希有な女性かもしれない。

編集部注)
「健康基準値大変更」の『週刊文春』の記事は、漢数字を算用数字に変更しています。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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