4月23日から25日までバラク・オバマ米大統領が国賓として来日した。夜、大統領専用機で到着したオバマ大統領は安倍晋三首相の待つ銀座「すきやばし次郎」へ直行して、日本一といわれる寿司を食べながら約1時間半懇談した。

 その後、オバマ大統領が迎賓館ではなく都内のホテルに宿泊したことや、ミシェル夫人を同伴しなかったことで、「やはりオバマは安倍が嫌いなのだ」「TPP交渉がうまくいっていないことへの意趣返し」などという見方が広がった。

 事実、オバマ大統領来日までには紆余曲折があった。まず、国賓として来てもらうには天皇皇后両陛下との会見や宮中晩さん会に出てもらわなくてはいけないため2泊必要なのだが、大統領側は1泊しかできないと言っていたのだ。

 その強硬姿勢の背景には大詰めを迎えているTPP(環太平洋経済連携協定)交渉があった。牛肉の関税を巡って日米双方の主張が対立してまとまらないため、中間選挙を控えて何としてでも日本側に関税率の大幅引き下げを認めさせたいオバマ大統領は、訪日を機に日本側から大幅譲歩を引き出そうという思惑があったのだ。

 水面下で日米事務当局の激しい駆け引きがあったことは想像に難くない。2009年の来日の時には「神戸ビーフを食べたい」と大統領側から打診があったほどの肉好きだが、今回はそうした経緯があり、寿司に決まったといわれている。

 安倍首相にも共同声明で「尖閣諸島は日米安全保障条約の範囲内」という文言を入れたいという強い思いがあった。両者の思惑と駆け引きが来日してからも舞台裏で行なわれ、共同声明が大統領離日ぎりぎりになるという緊迫した2日間になった。

 甘利明TPP担当相とフロマン米通商代表部代表は首脳会談当日の午前3時まで協議するなど、妥協点を見いだすべく大統領来日中も話し合ったが、結局まとまらず継続協議となった。だが、共同声明では「交渉で重要な前進があった」としている。

 さらにオバマ大統領は記者会見で、意味ある開放以外は受け入れられないと語り、包括的な通商合意に向け、いまや日本は大胆な措置を取るべき時期であるとの考えを示した。

 そこから推測するに、安倍首相側は尖閣を安保条約の適用範囲と入れてもらうために、何らかの譲歩案を出したと見るのが妥当であろう。

 しかしオバマは歴代の大統領同様「尖閣諸島の領有権については決定的な立場は示さない」と語っているように、中国側にも一定の配慮をした声明であることは間違いない。

 このように同盟国のトップを迎えたにしては友好ムードがほとんど感じられない来日であったが、その原因の多くはオバマ大統領側にあったという見方がメディアに多いようだ。

 オバマ批判が強いアメリカ・メディアだが、「頼りない超大国」(『ニューズウィーク日本版』4/22号、以下『ニューズ』)で、シリアが化学兵器を使用して子供を含む数百人の市民が犠牲になったときも、ロシアのプーチン大統領がクリミア半島のロシア編入を宣言したときも「オバマの反応は煮え切らなかった」と難じている。

 「アメリカの影響力が低下しているのはなぜか。その理由のうち、オバマにはどのくらい責任があるのか。そして、アメリカの影響力低下はアジアや中東、その他の地域の同盟国にとって何を意味するのだろうか」

と『ニューズ』は問いかける。

 「実はアメリカの政治システムは、大統領にさほど大きな裁量を与えておらず、大統領が下す決断の多くについて、議会や裁判所などが待ったをかけることができる。だが、それにはわずかながら例外があり、その1つが外交政策だ。(中略)
 つまりアメリカの影響力が低下していると見られていることの責任はすべてオバマにある」(『ニューズ』)

 中間選挙で民主党が負ければ任期半ばにしてオバマ大統領はレイムダック状態になってしまう。そのためにも「シンゾウ」からTPP交渉で譲歩を引き出さなくてはいけなかったのだ。

 言われているように「オバマは安倍が嫌いだ」ということがハッキリしたのは日本の次に訪問した韓国でだった。慰安婦問題について記者から質問され、こう発言したのだ。

 「『恐ろしい、ひどい人権侵害だ』。オバマ氏は慰安婦問題をこう表現し、元慰安婦の声に耳を傾けるべきだとの考えを強調した」(4月26日付の朝日新聞)

 「バラク」とは肝胆相照らす仲だと誇示したかった安倍首相をひどくガッカリさせたことは間違いない。

 今回の来日にミシェル夫人を同伴しなかった「謎」についても、『週刊現代』(5/10・17号)が「安倍首相が握っていたオバマ夫妻『離婚』情報」でこう伝えている。

 「一説に言われている『ミシェル夫人は日本が嫌い』というのは間違っています。正確に言えば、『ミシェル夫人は夫が嫌い』なのでしょう。嫌いな夫とともに日本、韓国、マレーシア、フィリピンと4カ国も歴訪するなど真っ平ご免ということです。二人はもうずいぶん前から『仮面夫婦』状態で、『大統領退任の日が離婚の日』と言われているほどです」(在米ジャーナリスト・飯塚真紀子氏)

 だが、ミシェル夫人はオバマ大統領の女好きにずっと悩まされてきたという。飯塚氏はさらにこう話す。

 「オバマ大統領の選挙対策本部入りした黒人女優のケリー・ワシントン(37歳)とは、たびたび“熱い関係”が噂になっています。再選を目指したオバマ大統領は、10月3日の結婚20周年記念日に、共和党のロムニー候補とテレビ討論を行いましたが、それが終わるとハリウッドに急行。これに切れたミシェル夫人が、『ケリー・ワシントンに近づいたら即刻離婚する!』と大統領を怒鳴りつけたそうです」

 2人の派手な夫婦喧嘩は有名だそうである。

 「ハワイに同行したシークレットサービスが、ミシェル夫人がワシントンにいない間、オバマ大統領がホワイトハウスの自室に2度、女性を連れ込み、“不適切な関係”を結んでいたことを、ミシェル夫人に告げ口したのです」(アメリカの雑誌記者)

 安倍首相が本気で長期政権を目指すなら“内憂外患”のオバマ大統領とは距離を置いたほうがいいかもしれない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 今週は有名企業のスキャンダルを3本選んでみた。なかでも今やブラック企業の代表とまでいわれるユニクロの障がい者いじめは腹が立つ。

第1位 「ユニクロ『障がい者』社員いじめ・パワハラを告発する!」(『週刊文春』5/1日号)
第2位 「人妻を妊娠させた楽天No.2『國重副会長』愛のメール春夏秋冬」(『週刊新潮』5/1日号)
第3位 「銀座有名クラブ1億7000万円脱税ママのジャガーと白金の豪邸」(『フライデー』5/9・16号)

 第3位。企業ではないが銀座といえば値段も女性たちも超一流といわれる夜の社交場である。その銀座の有名ママが1億7000万円を脱税したというニュースにはちょっと驚いたが、それだけではなかった。『フライデー』が当人の佐藤成子(69)さんをバッチリ撮って、彼女が08年にも2億4000万円を脱税した罪で在宅起訴され、有罪判決を受けているので、今回は実刑を免れないという記事を載せている。恐れ入ったババ・ママだ。

 第2位は『新潮』が楽天ナンバー2の國重惇史(くにしげ・あつし)副会長(68)が不義を働いていたことを報じている記事。

 「奥さんと2人のお嬢さんがいる國重さん自身が不倫していたんです」と明かすのは、彼を知る関係者だ。
 「相手は6、7年前に知り合った、現在、都内で暮らす43歳の女性。1年前から付き合い始め、彼女と一緒に海外に行き、国内でも一緒にホテルに泊まったりしています」
 その上、不倫相手の森佳美さん(仮名)は専業主婦だからダブル不倫だった。しかし、最近はもめているそうだと森さんの知人が語っている。
 『新潮』の取材に対して國重氏はこううそぶく。
 「不倫っていうのは、人によって定義が違うからね。僕が裸で(妻以外の)女性と抱き合っていたからって、それがどうしたのって話じゃない」
 ところが、彼女が提供した証拠写真を突きつけると一転、
 「でも、それ以上はやってない。彼女に挿入したってことはない。一度もない」

 結局、取材に対する踏んばりはどこへやら、4月22日、國重氏はあっさりと楽天の全ての役職を辞任したそうだ。意外に引き際は潔かったようだ。

 第1位は『文春』のユニクロ追及キャンペーン

 ユニクロは「2001年に1店舗あたり1人の障がい者を採用する」という目標を掲げ、積極的に障がい者雇用を進めてきて、現在、1000人以上の障がい者が働いているそうだ。そのためユニクロは「障害者雇用のフロントランナー」と呼ばれているという。
 しかし、雇われている障がい者の声に耳を傾けてみると、同社が掲げる“看板”とはほど遠い実例が複数あることがわかってきた。
 障がい者手帳B1級を持つ自閉症の石尾辰道さん(48・仮名)は、中部地方のユニクロの店舗で働きはじめて8年になる。
 だが昨年6月以降、石尾さんはユニクロに在籍していながら、店舗のシフトから外されたため働けず、給与も支払われていない。そんな状態が1年近くも続いているそうである。
 自主退職を迫るユニクロに対して、石尾さん側は、弁護士を立てて訴訟の準備を始めたが、そのことで事態が変化したという。石尾さんの家族とユニクロの人事担当者、M店長とで話し合いがもたれ、この席でユニクロの人事担当者は、石尾さんが他店舗へ異動する折衷案を持ち出してきたそうだ。
 「そもそも最初に『お客の迷惑になる』として自主退職を勧めておきながら他店舗への異動を打診するなど、ユニクロ側の主張は根本から矛盾している」(『文春』)
 それに弁護士は、石尾さんの障害を考えると他の店舗への通勤はほとんど不可能だという。
 石尾さんの家族が民事訴訟を行なうのは、今後、同社の障がい者雇用が改善する礎になればとの思いからだという。
 これまでもこうしたケースはあったが、障がい者雇用に詳しい弁護士によると、家族の側に、障がい者の子どもを雇ってもらっているという引け目や、事を荒立てたくないという気持ちが強く働くから、なかなか表面化しないという。
 しかも企業が障がい者を雇用する際、厚生労働省から各種助成金を受けることができるから、ユニクロも『文春』の試算では5億円超の助成金を受け取っていることになるという。

 非正規社員1万6000人の正社員化や障がい者雇用の促進を声高にいうユニクロ柳井正社長だが、その実態が「ブラック企業隠し」であるとしたら、ユニクロのブランドも色あせてしまうことになるはずである。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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