「ほっこりする」といえば、いつのまにか全国的に定着している現代語である。(思ったより)「落ち着くなぁ」とか、(安らいで)「気持ちがいいなぁ」というようなとき、しっくりと折り合いのよいことばである。『日本国語大辞典』によれば、(1)いかにも暖かそうなさま。(2)ふくよかなさま。(3)色つやがよく明るいさま。(4)すっきりとしたさま。(5)うんざりしたり、困り果てたりするさま、などとあり、さらに近畿や北陸などの地域の数多くの方言が解説されている。さて、純粋な京都ことばとしての「ほっこり」といえば、(4)と(5)の中間ぐらいの位置づけになるのだろうか。

 京都の暮らしや料理のエッセーで右に出るもののない存在であった、随筆家の大村しげさん。彼女の随筆集『ほっこり京ぐらし』(淡交社)のあとがきには、「ほっこり」というのは「疲れたときとか、退屈しているときの状態に出てくることばです」と書かれている。解釈は、ことばの使い手の年齢に影響されるかもしれないが、気疲れしたり、手間取ったりしたことが終えられて安心したとき、「ほっこりしたなぁ」と、実感を込めて使うことが多いように想像される。この負担が予想以上に荷の重いものである場合、「ほっこり」とは言わず、「くたぶれた」とか、「しんどい」とか、もっと弱音っぽい言葉づかいに変わるはずである。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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