1961年に国民皆保険が実現し、「いつでも、どこでも、だれでも」平等な医療が受けられる日本と異なり、アメリカには全国民をカバーする公的な医療保険は存在しない。

 アメリカにも公的医療保険はあるものの、高齢者のためのメディケア、貧困層を対象としたメディケイドだけで、そのほかは勤務先などを通じて民間の医療保険と契約する。しかし、保険料の高い民間保険に加入できない人も多く、アメリカ国民の6人に1人、約5000万人が無保険者となっている。

 アメリカの医療を語るうえで、同時に問題になるのが費用の高さだ。2011年の医療費の対GDP比は17.7%。OECD平均が9.3%なので、アメリカ一国だけ飛び抜けて高い。保険に入っていなければ、その高い医療費は全額自己負担だ。その結果、治療を受けることを諦めたり、医療費のために自己破産する人もいるほどだ。たとえ加入していても、経営を優先する保険会社は難癖をつけて給付してくれないことも多く、医療費が原因で自己破産した人の8割以上が保険に加入していたというから驚きだ。

 こうした状況を改善するために、2010年3月に成立したのが医療保険改革法。通称、オバマケアだ。だが、すんなりと施行にこぎつけたわけではない。個人主義を重んじるアメリカは、医療保険の加入を義務づけることは自助の精神を損なうとして、26の州が「法案は憲法違反」として提訴したのだ。その後、連邦最高裁がオバマケアは合憲と判断し、2013年10月から受け付けを開始。途中、ウェブサイトの障害などの混乱はあったが、2014年4月1日、オバマ大統領は、加入者数が710万人に達したことを発表した。

 とはいえ、オバマケアは日本のような公的保険による保障ではない。オバマ大統領も新たな公的な医療保険の枠組みを目指したが、保険業界の猛反発に遭い、当初の理念はあえなく収束。民間保険への加入を義務づけるにとどまり、次のような内容となった。

○加入者の拡大
・保険未加入者に対して罰金を科す(2014年は95ドルまたは課税所得の1%のどちらか高いほう)
・オンライン医療保険取引所「エクスチェンジ」を創設し、国民がネットを通じて加入

○保険会社への規制
・既往症や健康状態を理由とする加入拒否を禁止
・性別や健康状態を理由とする保険料の増額を禁止
・保険金支払額の上限設定の禁止
・保険料自己負担額の上限を設定

○企業への規制
・社員50人以上の企業には保険の提供を義務付け、違反した場合は社員1人あたり2000ドルの罰金
・社員200人以上の企業は、企業提供の保険に自動加入させる
・社員25人以下の企業は、企業負担分の保険料を最大35%補助する(2014年度以降は最大50%に拡大)

 こうした規制強化により、2019年までに民間保険の加入率が94%に増えると試算されている。しかし、一部の州では、オバマケアに対して違憲判決を出しており、貧困層向けのメディケイドの拡大を拒否する州もある。

 オバマケアは、無保険者減少に向けた一歩前進ではあるものの、アメリカが国民皆保険を実現できるかどうかは未知数だ。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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