たまにクイズ番組などで問われるが、大相撲の歴史をひもとくと、かなり変わった四股(しこ)名が散見される。「文明開化」「浦島太郎」「ヒーロー市松」……どれも実際に角界にいた力士だ。ただ惜しむらくは、特筆すべき記録は少ない。ただ「いた」という、薄い雑学としてしか紹介できないのである。後世に残る実力を発揮することが、いかに難しいかというあらわれだろう。

 ところで昨今、個性的に過ぎる「キラキラネーム」には議論の余地がある。実際の教育現場で不安が残る「読めない名前」は、親のホスピタリティの欠如と受け取られる場合があるのだ。たとえば、タレントの芸名には意外と「キラキラネーム」が少ない。まったく自由に思える芸名ですら、本気で事務所が売りたい場合には保守的に選ばれるわけである。では、大相撲の四股名はどうだろうか。

 いま、角界で「キラキラネーム」が多いことで知られるのが式秀(しきひで)部屋だ。たとえば、ウルトラマンタロウが由来の「宇瑠虎太郎(うるとら・たろう)」。アイドルグループ・Berryz工房(ベリーズこうぼう)の嗣永桃子(つぐなが・ももこ)、通称「ももち」のファンということから来ている「桃智桜五郎丸(ももちざくら・ごろうまる) 」。「爆羅騎源氣(ばらき・げんき)」という力士もいるが、こちらはなんと本名が伊藤爆羅騎。マフィア映画の『バラキ』から親が命名したものという。なんともまあ、個性派の四股名揃いだが、おかげでマスコミで紹介されることも多い。最近の大相撲は、世間からの注目度の低下にあえいでいる。このような状況では、個性的な名前の力士というだけでも意味のあるニュースソースだ。ここは肯定的に、キラキラネーム力士たちの活躍を期待せずにはいられない。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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