知恵詣りや知恵貰い、十三詣りともいう。京都には陰暦3月13日(陽暦4月13日か、その前後1か月間)の日に、数え年13歳になった男の子や女の子は、嵐山の嵯峨法輪寺(西京区)のご本尊、虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)をおまいりし、知恵を授かりにいくという伝承がある。旧暦3月13日は虚空蔵菩薩のご命日。森羅万象あますことなく広大な大空に納め、無限のご利益を平等に与えられるという、法輪寺のご本尊である。男13歳とは、昔の成人を表す元服をするころであった。また、女にとっては初めての厄年であり、生まれて初めて、布地一反分を使って仕立てた和服を身につけ、知恵詣をするというのが習わしになっている。このときに、これから一生使う数珠を授かるという人もいる。

 参詣の帰り道で、渡月橋を渡りながらいま来た後ろ側を振り向くと、せっかく授かった知恵がなくなってしまうと伝えられており、参詣した家族は、子どもを囲むようにして急ぎ足で渡月橋を渡っていく。十三詣では、境内で宝物や縁起物などの十三品をかたどった干菓子が境内で売られ、これを虚空菩薩に供えてからお下がりをいただくという風習があったが、十数年前に途絶えてしまったようである。

 渡月橋の付近は、いまでこそ観光客ばかりになっているけれど、以前はハイキングをしたり、泳いだり、筏流しの材木置き場で遊んだりと、京都の子どもにとっては楽しい思い出の詰まった場所だったと、年配の方々がよく話をしておられる。知恵詣もまた、そのような幼少期の楽しい思い出とともに大切に受け継がれているのである。

 

 

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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