『週刊ポスト』(3/21号、以下『ポスト』)の特集記事。4月から消費税8%になるのに、あえて値下げした根性のある企業を取り上げている。

 たとえば、はなまるうどんは価格を据え置き、日清食品は「ラ王シリーズ」の容器や具材変更で実質約16%の値下げになる。サンリオピューロランドは大人休日料金4400円を3800円など平日休日ともに値下げする。

 ファミリーマートはサンドイッチのパン5%増量でも価格を据え置き、イオンも半数以上のPB(プライベートブランド)商品で価格を据え置く。無印良品も75%の商品で価格を据え置き、しまむらも一部商品の価格を据え置きにする。

 こうしたことがなぜ起きるのか? 経済ジャーナリストの荻原博子氏は『ポスト』でこう語る。

 「給料が上がらず、デフレ脱却は実現していない中、消費増税を価格に転嫁すれば、小売業界は大打撃を受ける。消費増税で喜ぶのは輸出戻し税(企業が製品を輸出した場合、外国の消費者には税金分を価格転嫁できないという理由で、輸出製品の部品や原材料の価格に含まれている消費税分を国が輸出企業に戻す還付金のこと)で巨額の還付を受ける大企業だけ。内需型企業は生き残るために、身を削ってでも価格を下げざるを得ない状況です」

 昨年6月に安倍政権は4月1日以降、消費税増税分が取引価格に必ず転嫁されなければならないとして「消費税還元セール禁止法」を成立させた。だが岡田元也イオン社長は「国民生活を考えていない」、ユニクロ柳井正会長は「それが先進国か」とこき下ろし、下請けへの圧力はあってはならないが、販売店の自助努力まで禁じるのはおかしいと反対論が相次いでいる。

 ド根性企業の中に私の贔屓の店が2店も入っているので嬉しくなる。すき家は牛丼並盛280円を270円に値下げするのだ。

 牛丼もいいがこの店に置いてある食べ放題の紅ショウガがうまいから、一杯の牛丼で容器にあるショウガの3分1は食べてしまう。ちょっとドレッシングをかけると味がマイルドになるという裏技もある。時々店の人間にジロッと見られるが、かまうことはない。

 不思議なもので、たまにはおごって「おろしポン酢牛丼400円」を食べてやろうと意気込んで入るのだが、カウンターに座ると400円がとてつもなく高いものに思えて、いつも挫けてしまうのである。「山かけまぐろたたき丼580円」などは競馬でよほど儲からなければとても手が届かないと思ってしまうのだ。

 もう一つのサイゼリヤも半数程度の価格を据え置くという。「千ベロ」という言葉がある。千円札一枚でベロベロになれる店という意味だが、ここは幾ばくかのおつりが来ることもあるのだ。

 なにしろワイン500mlが370円、1500ml(ワイン2本分)のマグナムが1060円である。酒のつまみにいい辛味チキンが299円、エスカルゴのオーブン焼きもマルゲリータピザも399円なのだ。

 さらにみみっちい話で恐縮だが、私は毎日バスで駅まで出ている。片道200円だから往復で400円。これが4月1日からPASMOを使わないと片道210円になる。これぞ便乗値上げである。したがって一日20円の負担増になるから、20円×24日(月曜日から土曜日)=480円×12か月=年間5760円にもなると、消費税の“怖さ”を実感している。

 大企業では久々にベースアップが満額回答などと浮かれた報道が多いが、そんな微々たる給料アップは運賃、生活必需品、電力料金の値上げで吹っ飛んでしまうから、これで景気が上向くはずはない。アベノミクスの終焉はすぐそこまで来ていると思わざるを得ないのである。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 今週最大の関心事はやはりSTAP細胞の小保方晴子さんであろう。疑惑から捏造へと、彼女に対する風当たりがそうとう厳しいのはタイトルを読んだだけでわかる。

第1位 「小保方晴子さんは、これからどうなるのか?」(『週刊現代』3/29号)
第2位 「オボちゃんはなぜ『やっちまった』のか」(『週刊ポスト』3/28号)
第3位 「STAP細胞小保方晴子さんは『佐村河内』だったのか」(『フライデー』3/28・4/4号)

 『フライデー』は「“全聾の作曲家”佐村河内守氏に、多くの日本人が騙された。まさか小保方さんが、とは思いたくないが」と含みを持たせているが、内心では第2の佐村河内事件だと思っているのだろうな。

 『ポスト』でも「『ノーベル賞級の発見をしたヒロイン』から『希代の詐欺師』呼ばわりされるほどの急転落」と、捏造は疑いないという書きようである。
 その背景には、こうした研究はビッグビジネスになる可能性があり、もしかすると「小保方の研究を邪魔しようとする研究者が、こっそりと別の万能細胞を混入させ、実験結果を狂わせた」という怪情報まで囁かれていると書いている。

 『現代』も小保方さん側の“捏造”が濃厚であるという見方ではあるが、その背景に男女の問題があるのではないかと報じている。
 こういう騒動になるとしたり顔で、だからいったじゃないか、あの二人はどうもおかしいと思っていたんだという輩が現れるものである。
 『現代』で理化学研究所の関係者という人物が、再生医療分野の第一人者で理研幹部の笹井芳樹副センター長と小保方さんとのことを、こう話している。

 「それほどの人材が小保方さんの指導にあたっていながら、なぜこんな杜撰な論文を発表してしまったのか、実に不可解です。一部では、論文の根幹部分は笹井氏が執筆を担ったとも言われている。小保方さんは笹井氏の引きで、ほとんど実績もないまま、たった2年で理研のユニットリーダーになりました。その人事の経緯や特別な人間関係も含め、不適切な点がなかったか疑問の声が内部でも上がっています」

 気になる小保方さんのこれからだが、ベテラン研究員は厳しい言い方をしている。

 「ここまで信頼を失ってしまうと、残念ながら、小保方さんはもはや研究者を続けていくことはできません。共同研究など怖くて誰もできませんし、仮に彼女が単独で新論文を発表しても、誰も相手にしない。大逆転があるとすれば、何らかの『奇跡』が起きて、STAP細胞の存在自体が証明されること。そうであって欲しいとは思いますが……」

 天国から地獄まで見た彼女の「大逆転」はあるのだろうか。

   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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