3月16日に田を守る神に供える16個のお団子のこと。日本では、春になると山の神が山から降りてきて田の神として稲作を守り、収穫を終える秋になると、田から上がって山に帰っていくという、神去来(かみきょらい)の伝承が信じられてきた。この伝承によれば、山の神が山と里とを行き来する日が、3月と11月(10月の地域もある)の16日とされ、この両日には16個のお団子を供え、特に3月16日には、神迎の儀式が執り行なわれてきた。

 十六団子の材料やつくり方に特別な決まりはないようである。通常は、粳米(うるちまい)を乾燥させてから粉にひいた上新粉を使い、砂糖を加えて甘みをつけ、練って丸めたものを蒸しあげてつくる。しかし、各地の伝承を見ていくと、臼をつく杵の音を山里に響かせることが山の神への合図でもあった地域もある。すると、団子ではなく、以前は杵でついた餅をお供えしていたのかもしれない。

 話は変わるが、16という数字は和菓子と関わりが深い。室町時代以降、陰暦6月16日に16個の餅を無言で食べると病気にならないという「嘉定(嘉祥)喰い(かじょうぐい)」という風習があった。これが近世の民間に伝わると、16文のお金でお菓子を買い、笑わずに食べ切ると病気にならない、という風習に変わっていった。そもそもの始まりは、848(承和15)年に仁明(にんみょう)天皇が年号を嘉祥とする際、悪疫を払うために賀茂神社に16個の菓子を祀った宮廷行事に由来する。そして現代の6月16日は、和菓子の日に制定されている。


お下がりを善哉(ぜんざい)にしていただき、とてもおいしかった。上新粉に片栗粉と砂糖を少々加えて練り、ゆでればできあがりである。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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