アンネ・フランクが書いた日記。彼女はドイツのフランクフルトに生まれたが、反ユダヤ主義を掲げる国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)の政権掌握後、迫害から逃れるため、フランク一家は故国を離れてオランダのアムステルダムへ亡命した。

 しかしそこでも「ユダヤ人狩り」が行なわれ、彼女たちは隠れ家で暮らすことを強いられた。アンネはそこでの2年間のことを日記に書き続けたが、1944年8月4日にゲシュタポに発見され、全員がナチス強制収容所へ移送されてしまう。そこで彼女はチフスに罹患し15歳で亡くなる。

 ナチスドイツによるホロコーストによって殺害されたユダヤ人は600万人以上、最多で1100万人を超えるといわれている。

 アンネたちの逮捕後、支援者のオランダ人ミープ・ヒースが、部屋に散乱していた日記類を密かに回収して保管し、戦後、ただ一人生き延びた父親のオットー・フランクにこの日記を渡し、出版された。60以上の言語に翻訳された『アンネの日記』は2500万部を超える世界的ベストセラーになった。

 2009年、ユネスコはオランダに保管されていた『アンネの日記』を世界記憶遺産(Memory of the World)に登録した。

 本は1952年に日本でも出版され、日記の中でアンネが生理のことを“甘美な秘密”と肯定的に受け止めていることに感動した27歳の坂井泰子(よしこ)が、「アンネナプキン」を1961年に発売して爆発的に売れ、「アンネ」は生理の代名詞にまでなった。

 その『アンネの日記』が、何者かに目の敵にされ、東京都内5区3市の38図書館で、昨年から今年にかけて少なくとも300冊以上が破り捨てられるという“事件”が頻発しているのである。

 『週刊新潮』(3/6号、以下『新潮』)は犯人像と動機をこう推理している。

 「『やはり、ナチズムやネオナチの思想に傾倒している者の犯行だと思います』
 こう犯人像を語るのは上智大学名誉教授の福島章(あきら)氏だ」

 「欧米にはナチズムやネオナチの思想を信奉する団体は少なくないが、日本にも同様の団体がある。それは日本版ネオナチの国家社会主義日本労働者党だ。党員20人を率いる山田一成代表に犯人の心当たりを聞くと、
 『私の仲間や周辺でやったという話は全く聞いていません。ただ、私が考える犯人像があります。今年はヒトラー生誕125周年にあたり、それに向けて実行したのかもしれません。ユダヤ人が「アンネの日記」をホロコーストの悲劇の象徴のように扱っているのを嫌い、排除したいと考える思想の持ち主ではないでしょうか』」

 1995年に文藝春秋が発行していた月刊誌『マルコポーロ』(2月号)が「戦後世界史最大のタブー。ナチ『ガス室』はなかった」という記事を掲載して、アメリカのユダヤ人団体サイモン・ウィーゼンタール・センターなどから猛烈な抗議を受け廃刊したことがあるが、それを超える愚挙というしかない。

 『新潮』は「手口の稚拙さを考えると、“ネット右翼”を自認する若者の線も捨てきれない」としているが、これも安倍晋三首相に代表される「右傾化する日本」を象徴する出来事の一つなのであろう。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 テレビや新聞がやれないことをやるのが週刊誌の役割だが、今週はその醍醐味を知ってもらえる記事を3本選んでみた。

第1位 「もはや、絶体絶命!STAP細胞小保方晴子さんに新たな『論文コピペ疑惑』」(『週刊現代』3/15号)

第2位 「東北被災地の買取価格は八ッ場ダムのたった『10分の1』」(『週刊ポスト』3/14号)

第3位 「安倍首相とアッキー昭恵夫人『家庭内野党』演出説を追う」(『週刊ポスト』3/14号)

 第3位は『ポスト』の素朴な疑問。安倍首相夫人のアッキーこと昭恵さんの「家庭内野党」発言は演出されたものではないか? 確かに、もしもアッキーがいなかったら、安倍首相のイメージは全く違ったものになっていたに違いない。

 「不満を抱く人々のガス抜き効果にとどまらず、『安倍首相への安心感』をもたらす効果を生んでいる。
 実はこのテクニックは、近年、企業の危機管理術として注目されるダメージコントロール手法だという」
 『ポスト』はこう結ぶ。
 「“家庭内野党”が裏でコッソリと夫と連立を組んで、強権政治の手助けをしている可能性がある以上、彼女の発言に過敏に反応するのもそろそろ自重したほうがいいのではないか」
 私もこの説には賛成だ。

 第2位は『ポスト』お得意のシロアリ官僚批判。福島第一原発で被災し、放射線量が高くて「帰還困難区域」に指定され、帰ることができない人たちから自分の家と土地を買い取ってほしいという声が高まっている。
 だが、『ポスト』はその買取価格は異常に安いと報じているが、これこそ今メディアが報じなくてはいけない情報である。『ポスト』はこう書く。

 「被災地と同様に住民が立ち退きを迫られながら、国が湯水のように買収資金をつぎ込んでいる土地がある。群馬県長野原町──八ッ場(やんば)ダムの建設予定地だ。
 被災者たちはダムの底に沈む八ッ場の土地買取価格を知ると驚愕するはずだ。
 本誌が入手した国交省の極秘資料『八ッ場ダム建設事業に伴う補償基準』によると、宅地1平方メートルあたりの買取価格は1等級が7万4300円、最低の6等級でも2万1100円。南相馬市と比べると4倍以上に査定されている。
 農地(田)の補償額の格差はもっと大きい。国交省は八ッ場の農地に最低の6等級の田でも1平方メートル= 1万5300円と南相馬市の農地の10倍以上の高値を与えている。『6等級の田』といえばいかにも作付けをしているかのように思われるが、実際にその場所を確認すると小石が散乱し雑草が生い茂っている。何年も耕作されていないようにしか見えない荒れ地である」

 なぜそんなことが起きるのか。

 「八ッ場ダムは関連事業者への天下りだけでものべ数百人という巨大利権だ。シロアリ官僚は八ッ場ダムの建設のためには、税金をいくら注ぎ込んでも惜しくない。だが、放射線に汚染されて買収してもうま味がない被災地の土地は逆にカネを惜しんで買い叩こうとする。
 この国では、政府や自治体による土地買取費用は、シロアリがどれだけ儲かるかで決まるのだ」

 その結果、被災地では家を失いながら、雀の涙の補償金で新たな家さえ持てない難民が増えている。こんなおかしいことがあっていいのかね、安倍首相?

 第1位STAP細胞で一躍有名になった小保方晴子さんだが、その信憑性に“?”がつけられ、週刊誌の格好の標的になっている
 今週の『現代』では「もはや、彼女は絶体絶命」だというのだ。

 新たな疑惑を科学ジャーナリストが語る。
 「問題の箇所は、2005年にドイツの名門・ハイデルベルク大学の研究者らにより発表された論文の一部をコピペしたのではと見られています。科学誌『ネイチャー』に掲載された小保方チームの論文とドイツの論文を比べると、約10行にわたってほぼ同じ英文が並んでいる部分がある」

 横浜市立大学大学院医学研究科で再生医療を研究する鄭充文(テイ・インブン)氏もこう難じる。
 「私たち研究者の世界では、引用文献についてはかなり厳しくチェックしています。小保方さんのようなケースで引用元を表示しないというのは、ありえない。しかも博士号まで取った研究者が『ネイチャー』に提出するレベルの論文で、基礎的な元素記号を間違えるなんてことは考えられません。少なくとも、自分で論文を書いて確認をしていればまず起こらないこと。なのに、こんな初歩的なミスが指摘されるのは、元になった論文をなにも考えずにコピーし、自分の論文に貼りつけたからではないのか。もしこれが本当に『コピペ』だとしたら小保方さんは研究者として完全にアウトですよ」

 『現代』は、「とはいえ、もしも論文通りに実験が成功し、STAP細胞が確かにできるというなら、こうした問題点も『些細なミス』で済むかもしれない。だが2月27日現在、日本国内を含む世界の複数の一流研究所が追試を試みても、1件の成功例も上がっていない」と追及する。
 この「騒動」どういう決着を見せるのか?

   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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