蜆を茹で、殻からとり出した身のことをいう。雛祭りのばらずし(家庭風ちらし寿司)に付けるお吸い物は蛤(はまぐり)とよくいわれるが、京都の蜆のお汁は美味であり、身蜆の生姜煮もまた、春を代表する佃煮である。

 全国的に出回っている真蜆(ましじみ)は寒中に旬を迎えるが、京都で食べられる蜆とは瀬田蜆(せたしじみ)をさし、これは3月~4月に旬を迎える。日本の蜆には、淡水に棲む真蜆と、海水の混じった河口付近に棲む大和蜆(やまとしじみ)、砂地を好む瀬田蜆の三種類の仲間がいるという。瀬田蜆は琵琶湖水系だけに棲み、琵琶湖から流れ出る唯一の川の瀬田川(滋賀県)でとられてきた。

 殻は3センチ四方ほどで、茹でると、身は直径1センチほどの小ぶりだが、ふっくりと厚みがあり、身がしっかりとして噛みごたえがある。真蜆のような泥底に棲んでいるものとは味が違い、お汁にしても、佃煮にしても、薄めの味付けで春らしい風味を楽しむのがおいしい。

 琵琶湖周辺でしか味わえない固有種であるが、漁獲は1950年代半ばがピークで、その後はずっと減り続けている。琵琶湖に生息可能な環境が少なくなったことが減少の理由で、南湖はほぼ絶滅し、北湖の一部に残っているだけといわれる。滋賀県では以前から生育環境の改善や稚貝の放流に取り組んでおり、あと5年もすると、もっと入手しやすい量がとれるようになるという。春の味わいの復活を心待ちにしている。


ほんのりとした甘みが食欲をそそる、身蜆の生姜煮。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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