こざっぱりとした大手の居酒屋チェーンは、現代サラリーマンのガス抜きになくてはならないものだ。だが一方では、昔ながらの「大衆酒場」という文化もある。親父たちの喧噪と煙草の煙。本来は「気軽さ」がウリであったはずだが、いつしか若い世代や女性には「敷居が高い」ものとなり、大手チェーンにおされていった。いま、この業態が「復権」を果たしている。いわゆる「ネオ大衆酒場」である。

 なんといってもその安さが魅力。酒場としては困るのかもしれないが、ビールとイチ押しメニューだけでも満足感があるだろう。食材にこだわる店も多い(もとより大衆酒場の心意気とはそういうもの)。飲み会の場としては、チェーン店に欠けた親しみ深さが支持されている。地域密着型の店舗が多いこともあって、客層も多様。女性が「お茶」をする場や、家族連れの団らんの場になっている(子ども向けメニューがある店も)。ネオ大衆酒場と呼ばれるいまどきの酒場の雰囲気は、ファミリーレストランに近づいているといえる。

 飲食業において「安くてうまい」は、理想ではあるが難しい。経営者は利益率の低さに愕然とするものである。そこで、しゃれた雰囲気などのテクニックで演出したくなる。「大衆酒場」は昔から、そうした経営側のホンネよりも、よりお客に寄り添った業態だ。「まともな商売」によって固定客が離れないメリットは、ネオ大衆酒場の強みである。

   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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