立春を前に、冬の寒さがぐっときつくなると、温かな鍋料理が一層恋しくなる。肉や魚、豆腐や野菜を土鍋に入れ、火にかける。土鍋を前に、ゆっくりと火が通るのを待っていると、そろそろ吹きこぼれるかな、という頃合いで旨そうな音が聞こえてくる。「ふつふつ」ほど弱くもなく、「ぐつぐつ」ほど強火で煮る音でもない。「じやじや」と例えるのがほどよい音と様子なのである。ごはんや煮物などが煮え、ふきこぼれそうになるときを「じやじやどき」といったり、野菜や肉の煮たものを「じやじや煮」と呼んだりする。雑炊を「おじや」と呼ぶのは、この擬声語が語源という説もある。

 冬本番には、京野菜の水菜、その一種の壬生菜(みぶな)といった、鍋料理に合う個性派の菜っ葉が旬を迎えている。大阪には鯨肉と水菜だけを入れて煮込んだ鍋物「はりはり鍋」という名物料理がある。水菜の堅い繊維に火が通り、ややくたっとしたら、ポン酢につけて食べる。噛んだときに水菜特有のシャキシャキとした歯ざわりがするため、「はりはり」という名前が付けられたという。

 京都で鯨肉の鍋というと、昔は「いりがら」を具にした鍋料理をよく食べたという話を聞いたことがある。「いりがら」は、大阪では「コロ」という名称で、おでんの具としても使っている食材である。これは脂肪の多い腹側の皮部分を使い、一旦油分を搾った後、揚げてからっと仕上げたもので、菜っ葉と一緒に「じやじや」とさせながら鍋ものにすると、体の芯から火照るように温まるそうである。


京都の寒い時期に欠かせない鳥すきも「じやじや」がおいしい鍋料理。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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