女優。1月11日に食道がんで死去。享年80歳。東京・品川生まれで、敗戦の翌年、父親が他界すると高校を退学して松竹歌劇団(SKD)の養成学校へ入学する。

 入団前に黒澤明監督に抜擢され新東宝映画『野良犬』(主演・三船敏郎、1949年)に本名の井田綾子で出演している。

 芸名は大好きだった宝塚歌劇の淡島千景から淡をとり、黒澤監督が恵子と付けたといわれる。淡路が初めて主演した映画『この世の花』(55年)の主題歌を島倉千代子が歌い、映画とともに大ヒットした。

 この封切り当時私は10歳だったが、父親に連れられて観に行った記憶がある。満員で大人の背中越しに観ながら、島倉の「想うひとには嫁がれず 想わぬひとの言うまま気まま」という歌詞を帰り道に歌って、父親から怒られた。

 淡路を素晴らしい女優として意識したのはNHKの連続ドラマ『若い季節』だった。これは61年から64年まで続いた人気ドラマで、淡路は銀座の化粧品会社『プランタン化粧品』の女社長役だった。いまでいうオールスターキャストで、売り出し中の坂本九、ハナ肇とクレージーキャッツ、いしだあゆみ、渥美清、落語界の御曹司・古今亭志ん朝も出ていた。

 淡路はスタイルのよさも際立っていたが“鉄火肌の姐御”っぷりがいまでも目に焼き付いている。

 この頃は生放送でもちろんカラーではないが、茶の間で見ていた私には、淡路の着ているクリーム色のスーツがハッキリ“見えた”のである。同じ頃に放送されていたアメリカの『サーフサイド6』(トロイ・ドナヒュー主演)はマイアミを舞台にした青春ドラマだが、トロイが運転して海辺を走るスポーツカーの鮮やかな赤も“見えていた”のである。

 淡路はこの頃、フィリピン人歌手のビンボー・ダナオと“事実婚”していて2人の男の子を産んでいる。

 だが11年続いた同居生活は破綻する。66年に当時の大スター中村錦之助(後の萬屋錦之助)と結婚。『週刊新潮』(1/23号)は、淡路が昨年、大腸に腫瘍が見つかり入院する直前の5月下旬にインタビューしているが、そこでこの結婚をこう語っている。

 「『僕は2人の父になるよ。一緒になろう』と猛烈にプロポーズされ、再婚したのです。錦ちゃんは思った通り心の広い人で、2人の連れ子にも私にもたっぷり愛情を注いでくれた」

 順調だった女優業を辞めて夫に尽くし、新たに2人の息子にも恵まれた結婚生活だったが、82年に暗転する。

 錦之助の経営するプロダクションが約13億円の負債を抱えて倒産してしまうのである。豪邸も差し押さえられた淡路に次なる不幸が襲う。「錦ちゃんが原因不明の難病『重症筋無力症』に罹ってしまいます」(淡路)。献身的な介護をするが2度も危険な状態に陥ったことがあるという。

 奇跡的に錦之助は回復し銀幕にカムバックしていくのだが、その間、淡路は講演活動や六本木のクラブの雇われママをして生活を支える。

 夫が復帰して喜んだのも束の間だった。次なる不幸が淡路に降りかかる。錦之助と舞台で共演した元宝塚の甲にしきとの不倫が発覚するのだ。淡路はその頃、こう考えたという。

 「私も、次々にこれでもかと襲ってくる不幸に、“神も仏もあるものか、鬼が出ても蛇が出ても、私は逃げない。背中を見せないで立ち向かうしか道はない”と思い知らされたのです」

 4人の子供を連れ丸裸で飛び出した淡路は女優業に戻る。だが不幸の魔の手は“萬屋の血を”継ぐ三男(オートバイ事故)と四男(自殺)までも彼女から奪ってしまうのだ。

 晩年、テレビの辛口ご意見番としても人気者になるが、彼女の言葉に重みがあったのは、ほかの軽薄なテレビ人間たちとは流した涙の量が違うからであろう。

 所属事務所社長が、淡路は生前「私の葬儀には真っ赤なバラをたくさん飾って、遺骨は大好きな銀座のお店や帝国ホテルに少しずつ撒いて欲しい」といっていたと『週刊文春』(1/23号)で語っている。ホテルに遺骨を撒くのは論外としても、彼女には真っ赤なバラがよく似合う。「ご苦労様、ゆっくりお休みなさい」と声をかけてあげたいと思う。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 細川護煕氏と舛添要一氏との一騎打ちになった感のある都知事選挙だが、週刊誌も細川派と舛添派に色分けされている。
 といっても舛添氏有力だというのは『週刊新潮』(1/23号)の「『還俗陶芸家・脱原発元総理』連合対『絶倫政治学者』」ぐらいしかなく、数としては細川派が圧勝している。
 そこで細川応援派から3本選んでみた。

1位 「『小泉・細川を潰せ!』大謀略」(『週刊ポスト』1/31号)
 細川出馬をスクープした『ポスト』は、今回は投票率が上がるから無党派層票を取り込める細川氏が勝つと読む。

2位 「細川担いで安倍潰し“原発ゼロ愉快犯”小泉の野望と勝算」(『週刊文春』1/23号) 
 細川都知事誕生なら安倍政権へのダメージは計り知れないと読む。

3位 「細川・小泉なら日本が変わる」(『週刊現代』1/25・2/1号)
 こちらも、細川・小泉連合が勝てば東京ではなく日本が変わるとしているが、どれも主役は小泉氏で付け足しのように細川氏をもってきているところが、この都知事選挙の本質を表しているようである。 

 

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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