北野天満宮(上京区)では、主祭神・菅原道真公の誕生日6月25日と、命日 2月25日ゆかりの毎月25日をご縁日とし、「天神さん」と呼んでいる。特に12月25日に行なわれる祭礼は、昔から「終い天神」と呼ばれ、毎年十数万人が関西一円から訪れ、参拝者には正月の祝い箸やお屠蘇(とそ)などが授与されている。

 毎月25日の通常の「市」は西陣織産地のご当地らしく、きものや反物、裂(きれ)や古道具などがたくさん売られている。「終い天神」の日は、参道には千数百もの屋台が並び、参拝客でごった返している。押し迫った時期の「市」だけに、葉ボタンや福寿草などを並べる植木店、〆飾りや新巻鮭などの正月用品や傷みにくい土つきの里いもなどを売る屋台が勢揃いする。

 また、正月準備を始める事始め(12月13日)から終い天神のころまでは、境内でこしらえた梅干し「大福梅(おおふくうめ)」が授与される。京都ではこの梅を授かり、元旦の朝の祝い膳(ぜん)で、結び昆布と一緒にした大福茶(おおぶくちゃ)を飲むことを習わしにしている人が多い。この初茶の風習は、951(天暦5)年の村上天皇の疫病の平癒に由来し、邪気を払い、生気に満ちた健康な一年間を過ごすことを祈るものである。

 新年最初のご縁日は1月25日。この祭礼は「初天神」という。


賑やかな終い天神の様子。



大福は王服が転訛しことば。元旦の朝、お茶や白湯に入れ、新年最初のお茶として飲む。梅は北野天満宮の梅園で6月下旬に採取され、真夏に天日干しされたありがたいもの。貯蔵前に塩がふってある。


京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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