第46代自民党幹事長、56歳。鳥取県出身。父親は旧建設省(現・国交省)の官僚。慶應大学法学部卒業後三井銀行入社。1986(昭和61)年に衆議院選に出馬して初当選、以来9期連続当選を果たす。防衛大臣、農林水産大臣、政調会長などを歴任して現職。

 2012年9月に行なわれた自民党総裁選での第1回投票では199票を獲得して第1位となる。決選投票で安倍晋三氏に敗れるが、ポスト安倍の最有力候補である。防衛問題では党内一の論客として名高い。

 安倍首相と同じ憲法改正論者で原発推進派である。自著『真・政治力』(ワニブックスPLUS新書)で憲法の前文「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」に疑義を唱え、こう書いている。

 「憲法の理想と現実が異なるならば、どうなるのでしょうか。もし『平和を愛さない諸国民』がいたら。もし『公正ではなく信義にもとる国民』がいたら。もし『信頼』が裏切られたら。それが原因で、もし国が滅びてしまったら一体どうするのでしょうか。(中略)それはもはや国家ではありません。主権国家の体をなしていません」

 また原発については「ただちに脱原発は無責任」だと言い切っている。原発ゼロを提唱している小泉純一郎元首相との論争を期待したいものだ。

 その石破幹事長が最近舌禍事件を起こした。特定秘密保護法案に対する国会周辺のデモ活動について「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われます」とブログに書いたのだ。多くのメディアの批判を受けて文章を訂正したが、「大音量で自己の主張を述べる手法は、本来あるべき民主主義の手法とは異なるように思います」とも述べている。またその後の会見でも知る権利を抑制するような、報道規制にまで踏み込む発言をしている。

 テロ発言については与野党が拮抗していれば辞任まで追い込まれたかも知れない“暴言”だが、週刊誌でこの発言を取り上げるところはほとんどなかった。

 逆に、このトンデモ発言に噛みついた朝日新聞に『週刊新潮』(12/12号)が噛みついた。常連の右派論客を動員して「秘密保護法案に反対するデモや反原発デモは整然ではなく、騒然」(屋山太郎氏)、「執務に影響があるほどの音量なわけですから、これはもうテロ、暴力行為です」(徳岡孝夫氏)、「左翼のデモは守れ、右翼の街宣はダメ。朝日は主張を同じくする団体の肩を持ち、対立する陣営を徹底的に潰しにかかる」(京都大学名誉教授の中西輝政氏)

 市民たちのやむにやまれぬ抗議行動をテロ呼ばわりする政治家を追及せず、メディアを叩くというのは、私にはとうてい理解ができないが、これを受け入れる「空気」が今の日本にはあるということであろう。

 そんな中で敢然とこれを批判したのが安倍総理夫人の昭恵さんだったからビックリした。『週刊現代』(12/21号)で、インタビュアーのジャーナリスト・松田賢弥氏に、石破幹事長発言をどう思うかと聞かれ、こう答えている。

 「デモができるということは健全な社会である証拠ですから、それをテロと言うことはちょっと許されないと思います。私には原発反対デモをしている知人もいますし」

 亭主の政敵への“批判”もちゃんとする彼女がとてもいい。

 昭恵さんは反原発派でも知られるが、亭主・安倍首相が原発再稼働を推進し、世界に原発を売り歩くセールスマンをしていることについても反対論を述べている。

 「もし、もう一度事故が起きれば、日本は終わってしまうと思うんです。以前、福島第一原発の20km圏内にも行きましたが、これだけの広範囲に未だに誰一人入ることができないという状況は、やはり普通ではないと感じました。(中略)
 子どもを持つお母さんたちは不安とストレスを抱え、風評被害は収まらず、除染も進まない。そんな状況で『原発は安全でしかも安い』と言われても。何か起きてしまえば莫大なお金がかかるわけですから、安いとは考えられません。(中略)
 国内の事故が収束していないのに、外国に原発を売るというのは、私個人としてはなかなか心苦しいところがあります。(中略)
 主人は『中国製の原発のほうが危険なんだから、日本製を買ってもらったほうがいい』と言っています。実際、そうなのかもしれません。でも理想としては、日本が原発に代わる技術を開発して、それを売り込むのが筋なんじゃないか、と思います。なかなか簡単ではないでしょうけれど」

 いま週刊誌業界での話題は、安倍昭恵首相と小泉氏の東京都知事待望論である。石破幹事長もおちおちしていられないかもしれない。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 「女たちはサオだけではなぜ満足できないのか」(『週刊ポスト』12/20・27号)

 「70過ぎたらクスリを使って仁王立ち!」(『週刊現代』12/21号)
  
 「くまモンは“暴力部屋”から生まれた」(『週刊文春』12/12号)

 3本目はゆるキャラの人気者が、ちっともゆるくない制作現場でつくられたという秘話を元スタッフが告発している。あとは説明の必要はないだろう。
 ちょっとHなのが多くなってしまったが、お許しを! いつもはタイトルの上手い『週刊新潮』が今週は見せ場なし。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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