京都在来のだいこんの品種で、やや細めだが、根の先が丸く、尻詰まりの独特の形をしており、漬け物にして食べる。いろんな呼称があり、正式名称は茎だいこんという。茎だいこ、とも呼ばれ、300年ほど前までは、壬生寺(みぶでら)に近い中堂寺地域(下京区)の特産であったため、中堂寺だいこんといわれていた。近年は伝統野菜として継承されている洛北・松ヶ崎(左京区)の地名から、松ヶ崎だいこんと呼ぶ人もいる。そして、古くから変わらずに親しまれている名称は、長ぐきである。実物は、どちらかというと短いのに、「長」をつけて呼ぶのは、同じ時期に漬ける聖護院(しょうごいん)だいこんよりも長いからだという。

 11月半ばに収穫されると、軒先などに10日間ほど干し、根がしんなりとしてきたら、茎葉ごと一本丸ごとを漬ける。通常、漬け物樽に平らに詰め、一段ずつ糠と塩だけを振りかけてあっさりと漬けるのが基本である。家により、柿の皮や鷹の爪、昆布などを一緒に漬け込んでひと工夫されている。1か月ほどで食べごろとなり、京都のお正月に欠かせない白味噌のお雑煮には、千枚漬よりも、この淡泊な大根の漬け物の方が好まれる。一時、栽培が途絶え、手に入らない時期があった。この時期には青首大根が代用されていたが、えぐみが強くなるので、長ぐきを惜しむ声をよく聞かされていた。


写真の糠漬けは、畑から間引いた未成熟な茎大根。白い根の部分は、太いものでもまだ1.5センチほどで、長さは13センチぐらいである。これからずんぐりと成長し、収穫期には直径6センチ、長さ30センチほどになる。葉も一緒に細かく刻んで食べる。もともと味が濃い品種なので、成長途中のものでもしっかりとした風味がある。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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