労働基準法では、会社の都合で一方的に従業員との雇用契約を打ち切ることを禁止しており、解雇するには相応の理由が求められる。そこで、人員整理をするために、多くの企業は早期退職制度などを導入している。

 中には希望退職に応じない従業員もいるが、そうしたリストラ対象者を自己都合退職に追い込むための特別部署が「追い出し部屋」だ。

 正式名称は「キャリア開発室」「人事部付」など企業ごとに様々だが、彼らに決まった仕事は与えられない。いたたまれなくなって、従業員自らが自主退職するように仕向けるために押し込めておく部署となっている。

 こうした追い出し部屋は、厚生労働省も問題視しており、今年1月にはパナソニック、シャープ、ソニー、NECなどの電気メーカーのほか、生命保険大手の朝日生命保険の合計5社の実態調査が行なわれた。

 追い出し部屋をもつ企業は、この5社だけではない。ここ数年、労働法に抵触して、パワハラ、セクハラ、長時間労働など、労働者の権利や雇用を守らない悪質な企業や法人を総称して「ブラック企業」と呼ぶようになっている。今年8月、NPO法人アジア太平洋資料センターなどが主体となって「第2回ブラック企業大賞2013」が発表された。その中で、追い出し部屋が理由で「教育的指導賞」を受賞したのが教育産業大手のベネッセコーポレーション(旧・福武書店)だ。

 ベネッセでは、人事を担当する人財部の中に「人財部付」をつくり、他部署を回って雑用をもらってくることを命令。仕事の大半は段ボールの片づけなどの単純作業で、社内に自分の仕事はなく、退職するしかないと思い込ませる場所として設置されたという。

 ベネッセ側は「『人財部付』は退職を勧めるための場ではない」と主張したが、2012年8月、東京地裁立川支部は、ベネッセの追い出し部屋について実質的な退職勧奨として違法な制度と判断した。

 もしも、自分が追い出し部屋に押し込められたら、すぐにでも辞めたいと思うかもしれないが、そこで「一身上の都合で」と辞表を書いてしまったら相手の思うツボだ。会社都合退職と自己都合退職では、退職金も雇用保険の失業給付も大きく変わってくる。労働問題にくわしい弁護士やユニオンなどに相談して、納得のいく解決法を探るようにしたい。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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