虫干しは夏干しや虫払いともいわれ、夏の土用(2013年7月19日から8月6日まで)のころ、黴(かび)や虫害を防ぐために衣類や書物、掛け軸などを日に干したり、風通しをよくしたりすることをいう。例年、京都はちょうど梅雨が明け、暑さが極まってくる時期である。寺院が蔵を開けて寺宝の虫干しをするときは、普段では目にすることができないような貴重な掛け軸や書物を間近に拝観できるので、つい出かけていくことになる。一昔前であれば、かごや張りかご(京都では「ぼて」と呼ぶ)などの道具類に渋塗りをする時期と重なっていたので、「三日三晩の土用干し」と呼ばれ、町中が大わらわだったそうである。

 小林一茶はそのような町の様子を、「虫干しに猫も干されて居たりけり」と、おもしろおかしく句を詠んでいる。

 虫干しはすでに平安時代には宮中で行なわれていた記録が残っている。当時は陰暦7月7日に乞巧奠(きっこうでん)という行事と一緒に行なわれていた。『国史大辞典』(吉川弘文館)によれば、乞巧奠は七夕の元になったとされる行事で、女子の手芸や裁縫の上達を祈るものであったという。経書や衣装の虫干しが7月7日に行なわれていたのは、虫干しにも裁縫や書の上達を願おうとする気持ちがあったからではないか、と推察される。

   

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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