少子化対策として打ち出された「生命(いのち)と女性の手帳」、通称・女性手帳(仮称)が物議を醸している。

 女性手帳は、内閣府の有識者会議「少子化危機突破タスクフォース」が提案したもので、妊娠・出産にまつわる知識を広め、晩婚化に歯止めをかけるのが目的。自治体の支援情報や予防接種の履歴なども書き込めるようにするという。

 しかし、発表直後に参議院内閣委員会で質問に立った民主党の蓮舫(れんほう)元少子化担当相が「全女性を対象にするのは危険。同性愛者は手帳をどう受け止めるのか。結婚、出産は個人が決めること」と痛烈に批判。その後、インターネットなどを中心に反対意見が噴出し、手帳の配布は男性を含めた希望者のみに行なうことが検討されたが、結局配布は見送られた。

 2011年の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの平均数)は1.39。過去最低だった2005年の1.26よりは上向いているが、少子化に歯止めはかかっていない。このまま出生率が下降し続ければ、日本の人口は減少し続ける。そこで、晩婚化に歯止めをかけるために、女性手帳を持たせて高齢になると妊娠しにくくなるといった情報を知らせて、女性の意識を変えようということらしい。

 だが、いくら情報があっても、産める環境が整っていなければ、子どもを産もうと思う人は増えないだろう。

 保育所の待機児童問題、キャリアの中断、女性に重くのしかかる子育ての時間などの問題が解決しなければ、出生率の上昇は難しい。こうした問題を棚に上げて、女性の意識改革で出生率をあげようという女性手帳の発想はあまりにもお粗末だ。

 フランスは、事実婚から生まれた子どもへの手厚い保障を用意したことで、出生率が飛躍的に伸びている。一方、日本はいまだに婚外子は差別されており、シングルマザーの貧困率も改善されていない。本気で出生率を上げたいなら戸籍制度を改革して、結婚する、結婚しないに関係なく、生まれた子どもを平等に扱う法整備やシングルマザーへの手厚い保障を考える必要があるのではないだろうか。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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