水のきれいな小川や池に棲(す)むコイ科の淡水魚で、一対のひげをもち、細身で全長10センチほどの体には淡青色の縦縞(たてじま)がある。田諸子(タモロコ)という品種は全国に広く棲息(せいそく)しているが、京都でいう諸子はその近縁種で、もともと琵琶湖(滋賀県)の固有種であった本諸子(ホンモロコ)のことである。

 本諸子は泥臭さがほとんどなく、ふんわりと上品な口当たりで、骨まで柔らかい。4月ごろから卵を抱いて岸辺近くにやってきて、水草のある場所に産卵する。琵琶湖の湖岸で子持ちの本諸子を釣る様子は、湖国に春の訪れを告げる風物詩であったと聞く。

 佃(つくだ)煮や南蛮漬け、天ぷら、唐揚げといろんな料理で味わえるが、京都の料理店で素焼きにした本諸子に生姜(しょうが)醤油(じょうゆ)などをつけておいしくいただけるのはこの時期だけである。

 明治生まれの俳人・高浜虚子は「筏(いかだ)踏んで覗(のぞ)けば浅き諸子かな」と、諸子が岸辺に集まる春の風情を詠んでいる。



琵琶湖の本諸子。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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