春の花が散り始めるころに人々を悩ませるという、疫病神を鎮めるために行なわれてきた鎮花祭(ちんかさい、はなしずめまつり)である。安楽祭や夜須礼祭とも表す。祭りの練り衆(行列)が着飾って囃(はや)し踊ることを風流(ふりゅう)と呼び、やすらい祭の風流は、日本のもっとも古い形態を残している。京都・洛北(らくほく)の4地域(今宮、玄武、川上、上賀茂)に伝承されている祭りで、各地域のやすらい踊保存会が継承している。鞍馬の火祭、太秦(うずまさ)の牛祭とともに、京都三奇祭の一つに数えられる、国の重要無形文化財である。

 行列は花々で盛大に飾りつけた大きな花傘に続き、皆鮮やかな装束に仮装して、鉦(かね)や太鼓、囃子方の笛に合わせ、「やすらい~ようほい、はなや~」と不思議な節回しで囃し立てる。時折、赤熊(しゃぐま)というかぶりものを頭に付けた鬼たちが、長い毛を振り乱して飛んでは回り、跳ねては踊る。華々しくも妖(あや)しくもある一行は、時代を超えて練り歩いているかのようである。

 994(正暦5)年に京都の都に疫病が流行し、伝承地域にほど近い船岡山で御霊会(ごりょうえ、祭事の一種)が営まれたことをきっかけに、やすらい祭は毎年のように行なわれることになった。祭りの行列のとき、練り衆が囃子や歌舞によって追い立てているのは、花の精にあおられ、陽気の中に飛び出した悪疫(あくえき、流行(はやり)病)である。こうした悪疫を花で誘って花傘に宿らせ、疫病除けの神である紫野(むらさきの)の疫(えやみ)社(今宮神社の前身)に送り込んで鎮めるのである。

 祭りの最中に花傘の中にうれしそうに入っていく母子などをよく見かける。無病息災を祈りながら傘に入れてもらうと、悪霊がとりさらわれ、疫病にかからないといういわれが伝承されている。

※現在「やすらい祭」は4月第2日曜日(上賀茂のみ5/15)に各神社で行なわれている。


玄武神社のやすらい祭。行列の花傘(上)と鬼たちが跳ね回る様子(下)。


 

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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