豆腐の加工食品。つぶした豆腐にすりおろした山芋を加えて練り、百合根(ゆりね)、銀杏(ぎんなん)、笹掻(ささが)きごぼうなどを包み込み、油で揚げたものである。

 正式にはひりょうず(飛竜頭)といい、ポルトガルでクリスマスに食べられるドーナツ風菓子filhos(フィリョース)が語源で、江戸時代になってから豆腐料理として親しまれるようになった。名称の由来はこの説が有力だが、京都では龍(りゅう)の頭に似ているから、という説のほうがなじみ深い。現代では形は丸いものが一般的だが、昔は三角形をしていたそうだ。そして、銀杏は龍の目、笹掻きは髭(ひげ)、百合根は鱗(うろこ)を表しているという。

 関東でいう「がんもどき」とさほど違いはないものの、こちらは、鳥のガンの肉に似ているもの、という意味である。古くは豆腐ではなく、麩(ふ)やこんにゃくを揚げたものであったという。江戸時代の豆腐の料理書『豆腐百珍』には、厳石豆腐(がんせきどうふ)という、がんもどき風の料理が載っている。これは豆腐と鶏肉を練って丸めたものをすまし仕立てした椀(わん)物である。当時は精進料理ばかりでなく、豆腐や麩(ふ)、こんにゃくなどに工夫を凝らしたたくさんの料理があった。

 京都で食べる彼岸の精進料理に、ひろうすの「お平(ひら)」がある。この料理は、ひろうすに熱湯をかけて油抜きをし、淡いおだしでゆっくりと煮ふくめる。あとは、すましのつゆでくずあんをつくり、椀に盛ったひろうすにかけ、擂(す)った土生姜(つちしょうが)を添えればできあがり。平椀に盛るので「お平」と呼ばれており、彼岸でなくても食べたくなるほどおいしいごちそうである。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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