「戦争が始まれば、東京を空爆することを考えなければならない」。これは『週刊新潮』(2/21号、以下『新潮』)に掲載された羅援中国人民解放軍少将の発言である。
 1月30日に海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」が中国海軍艦艇にレーダー照射(ロックオン)されたことが発表された。ロックオンとはミサイルを撃ち込まれても不思議ではない危険行為。以来、週刊誌には中国との戦争が勃発したかのようなタイトルが並んだ。
 「中国人9割は『日本と戦争』『東京空爆』」(『新潮』)、「中国からの『宣戦布告』」(『週刊文春』2/21号、以下『文春』)、「中国『宣戦布告なき開戦』の一部始終」(『週刊ポスト』3/1号、以下『ポスト』)、「『狙いは首都・東京』習近平の中国は本気だ」(『週刊現代』3/2号)。
 1月19日にも尖閣諸島から北へ約百数十キロの海域で、海上自衛隊のヘリコプター「SH-60K」が、中国のフリゲート艦から射撃管制レーダー照射されている。その模様を『文春』で作家の麻生幾(あそう・いく)がこう描いている。
 「神経をかき乱す音が、海上哨戒用のヘリコプターSH-60Kの狭い機内に鳴り響いた。
 “強烈に耳障りな音”を聴いた機長ほか三名の搭乗員たちは、その音が意味することをすぐに悟った。
 SH-60Kをターゲットにして向かってくるミサイルが自ら放つ終末誘導レーダーか、軍艦が射撃を行うためのレーダーか、そのどちらかを探知したのだ。(中略)
 “強烈に耳障りな音”は止むことはなかった。しかも回避行動を取りながらその海域を離脱するSH-60Kの背後へも、フリゲート艦は十分近くもしつこく照射し続けたのである。
 “強烈に耳障りな音”を十分近くも聞き続けたヘリコプター搭乗員の精神状態はいかばかりであったか──『至急報』を受けた海上自衛隊幹部は、ゾッとする想いに襲われた」
 『ポスト』は、こうした中国側の危険な行為は2010年4月8日に「中国艦艇の艦載ヘリが護衛艦『すずなみ』に接近飛行」以来8件あると報じている。
 『新潮』によれば、『環球時報』という人民日報系の新聞が「尖閣空域で巡視活動を行う中国機に対し、日本の戦闘機が射撃を行うと思うか」というアンケートを実施し、3万人ほどが回答したが、その9割近くが「日本は開戦への第一弾を発砲するだろう」と答えたという。
 さらにメディアには解放軍の幹部たちが次々登場して「我々は瞬間的に日本の戦闘機F15を撃墜する力を持ち、開戦から30分で日本を制圧し、始末することができる」という過激な発言をくり返しているというのである。
 日中もし戦わば、という特集も多く組まれている。大方は日本有利と見ているが、「中国が東風21などの中距離弾道ミサイルを東京や大阪に向けて発射、それが着弾した場合、それらの都市は瞬時に焦土と化します」(武貞秀士(たけさだ・ひでし)韓国延世大学教授、『新潮』)という最悪のシナリオを想定する向きもある。
 私見だが、いくら中国軍内部に好戦的な空気が横溢(おういつ)しているからといって、中国がここまでやるとは思えない。それより日本にとって当面の最大の危機は北朝鮮である。日米関係も大事だが、北朝鮮をおさえるためにも中国の協力が必要なこと、いうまでもない。
 それなのに安倍晋三総理は中国との関係改善の糸口さえ見つけられないでいる。今メディアがやるべきは日中関係をさらに悪くする方向へ世論を煽(あお)ることではなく、安倍総理に「日中関係改善を最重要課題とせよ」と諭すことではないのか。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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