日本では誰もがなんらかの公的な健康保険に加入することが法律で義務づけられており、病気やケガをした時はかかった医療費の一部を負担するだけで必要な医療を受けられる。自己負担割合は年齢に応じて1~3割。たとえば70歳未満の人は3割なので、医療費が5000円だった場合は1500円を支払えばよい。
 では、医療費が100万円かかったら30万円支払うのかというと、そんな心配はない。健康保険は患者の負担が過大にならないように配慮されており、1か月に自己負担したお金が一定額を超えると所得に応じた払い戻しを受けられる。それが「高額療養費」という制度で、年齢や所得に応じた限度額がある。
 70歳未満での場合は所得に応じて限度額が3段階に分かれており、一般的な所得の人は【8万100円+(医療費-26万7000円)×1%】。つまり、医療費26万7000円までは3割を負担するが、それ以上は1%だけ負担すればよいということだ。たとえば1か月の医療費が100万円だった場合、最終的に自己負担するのは約9万円になる。
 医療費が高額になった月が1年間に3回以上になると、4回目からはさらに自己負担限度額が引き下げられる「多数回該当」という制度もある。また同じ世帯にいる家族の1か月の負担額を合算して、それが限度額を超えた場合、超過分が高額療養費として支給される「世帯合算」も利用できる。
 医療費が際限なくかかる心配はないのだが、こうした制度があることを知らないために、医療費の不安を抱えている人は多いようだ。生命保険文化センターの「平成19年 生活保障に関する調査」によると、民間の医療保険に加入している人は71.3%もいるのに、健康保険の高額療養費の存在を知っているのは43.8%で半数に満たない。
 健康保険は、民間の保険のようにコストをかけて大々的な宣伝をすることはない。原則的に申請主義で、保障内容について説明を受ける機会もほとんどないので、お金が戻ることを知らずに損をしている人もいる。高額療養費の還付申請の時効は2年。医療費がたくさんかかったのに高額療養費の申請をしていない人は早めに手続きを。
 ほかにも健康保険には充実した保障があるので、民間の保険に入る前に、まずは自分が加入している健康保険にどのような保障があるのか確認してみよう。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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