餅(もち)や野菜を煮合わせ、熱い汁に仕立てたもの。正月にお雑煮を食べる風習を、日本人は室町時代から守っている。語源の煮雑(にまぜ)ということばは、ごった煮のような料理のことで正月とは関係がない。古くは、年神(としがみ)様へ新年の安全と五穀豊穣(ほうじょう)を祈願した後、下げた供物と餅を煮合わせて食べたのが始まりという。
 京都のお雑煮は、まったりとした白味噌仕立てである。このお椀(わん)の中に、たくさんの願いが込められている。こぶし大もある大きな頭芋(かしらいも)は、人の頭(かしら)になるようにと、一人ずつに芋が丸のまま入っている。小芋は子孫繁栄の願いを込め、輪切りにした大根は、地にしっかりとした根を張るようにという思いを表している。これらの具とともに、小さな丸餅を入れ、食べる直前に花かつおをふわりとかければできあがる。具がすべて丸いのは、なにごとにも角を立てることなく、丸く収めよという教えからである。ほかの地域のように魚介などは入らないが、白味噌仕立ては精進の食材のほうがよく合い、風味や食感が一層おいしく味わえる。
 それにしても三が日を白味噌雑煮で過ごしていると、すまし汁のお雑煮が食べたくなる。そんなときは水菜とお餅だけのあっさりとしたすまし仕立てが京都らしい。水菜は京菜ともよばれ、寒さが極(きわ)まるころに旬(しゅん)を迎える。ショリショリとした歯ごたえとさっぱりとした後味で、お餅との食感の差がおいしさを引き立てる。


   

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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