冬至には、柚子を丸ごと湯舟に浮かし、香りいっぱいにした風呂に入れば、その冬は風邪をひかないといわれる。柚子湯に入った後、かぼちゃを食べる風習が残っている地域もある。
 冬至は、1年でいちばん昼が短く、夜がもっとも長い日。この夜、ゆったりと風呂につかりながら、明日から少しずつ日脚が延びる様子を想像しつつ、暖かな春を待ちわびてみる。考えるだけでも、せわしさと寒さに硬くなった体が、すっとほぐれていくような気がする。
 柚子には豊富なビタミンだけでなく、フラボノイド成分も数多く含まれているため、血行促進や抗ウイルス作用などの効用もある。年の瀬の柚子湯には、寒さや慌ただしさをしのぐ、古くからの知恵が受け継がれている。
 また、柚子は日本料理に欠かせない材料の一つである。京都・愛宕山(あたごやま)などの西麓(せいろく)には、水尾(みずお)をはじめ、山間の狭い土地に柚子の生産地が点在している。秋から年末にかけてこの辺りから京都の料亭へと、農家の人が急ぎ訪ねる姿を見かける。懇意の料亭から依頼を受けた、枝付きの大きな実の柚子を届けるためである。この柚子は、果実部をくりぬいて「柚釜」(ゆがま)をつくり、器のように使われる。
 この柚釜を使った菓子で室町時代からあるという柚餅子(ゆべし)は、干し柿とも羊羹(ようかん)とも、似て非なる珍味である。米粉、白味噌、砂糖、しょうゆ、木の実などの混ぜものを柚釜に詰め込み、柚子の萼(がく)部分でふたをして柚子の形に戻したら、そのまま蒸し上げる。そして日干しにし、待つこと3か月から4か月。乾燥しすぎると、硬くて食べられないので注意が必要。うまくいけば、柚子と味噌が溶け込んだ複雑な香味が楽しめる。


柚子の中身、米粉、白味噌、砂糖、醤油を練り、柚釜に詰めて蒸してから、2か月ぐらい日干しした柚餅子。薄く切って食べるといい。この年は実が小振りだったので、やや固めにできあがった。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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