11/2号の『週刊朝日』(以下『朝日』)に河畠大四編集長の「おわびします」という文章が巻頭2ページで載った。その原因となったのは前号(10/26)のノンフィクション作家佐野眞一による「ハシシタ 奴の本性」という新連載だった。
 佐野氏といえば、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞、『甘粕正彦 乱心の曠野(こうや)』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞している。東電OL殺人事件では逮捕されたゴビンダ氏の無罪を一貫して主張し続けた。
 佐野氏は連載第1回で、橋下氏がこの先日本の政治を左右する存在になるとすれば「敵対者を絶対に認めないこの男の非寛容な人格であり、その厄介な性格の根にある橋下の本性」を問題にしなければいけないとし、そのためには「橋下徹の両親や、橋下家のルーツについて、できるだけ詳しく調べあげなければならない」と、橋下氏の父親が同和地区の出身(地名を明記)であることやヤクザだったことを書いた。
 発売後、橋下市長から「政策批判もしないでぼくの出自、ルーツを暴くことは部落差別につながる」と猛烈な抗議を受け、『朝日』はすぐに編集長名で「おわび」を発表し、翌週号で先の「おわびします」を掲載して連載を中止してしまった。編集長は更迭(こうてつ)、朝日新聞出版社長は引責辞任。
 その後、親会社である朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」の検証で、「本件記事全体の論調から、いわゆる出自が橋下氏の人柄、思想信条を形成しているとの見方を明瞭に示している」と断じられ、佐野氏も「人権や差別に対する配慮が足りなかった」と批判されている。
 だが、同和地区出身のノンフィクション作家上原善広氏は『新潮45』(12月号)で「そうしたルーツが橋下氏の人格形成と何の関係もないかといえば、それは別問題だ。(中略)このようにねじれた“地獄の底”から、橋下氏は余人の想像を絶する努力で這い上がってきた。この生い立ちこそが、彼の『成り上がり』の原動力であり、彼自身の人格を形成してきたのである」と、ルーツを探る取材を認めながら、「いまだ深刻な路地(同和地区=筆者注)の問題をタブー視する新聞社を親会社にもつ週刊誌では、土台、これは無理な連載だったのだ」と『朝日』側の甘さを指摘している。
 この『朝日』問題の本質は、売らんがために過激なタイトルを付け、内容に細心の注意を払わず、橋下氏からの抗議に対抗する論理を構築できないまま出してしまった『朝日』編集部と、筆者の人権差別に対する配慮を欠いた書き方にある。
 両者に「言論の覚悟」がなかったと、私は思う。上原氏は、もっと書かれ報道され、表立っていつでも語られることで、路地は解放されると書いている。今回のことで、こうした問題に再び蓋をしてしまうことにならないだろうか。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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