『東海道中膝栗毛』(十返舎一九作)では「清水の舞台」に関する記述がいくつか出てくる。その六篇下では、弥次郎兵衛と喜多八が清水寺を訪ね、切り立った崖のうえに設けられている観音堂の舞台「清水の舞台」について、僧侶を交えて会話をする場面がある。

北八「時に弥次さん、かのうはさにきいた、傘をさして飛ぶといふは、此舞台からだな」
(傍らの)僧「昔から当寺へ立願のかたは、仏に誓ふて、是から下へ飛れるが、怪我せんのが、有りがたい所じゃわいな」
(ジャパンナレッジ「新編 日本古典文学全集[81]」『東海道中膝栗毛』」より)

 清水寺が運営するホームページ『清水寺よだん堂』によると、江戸中期に「清水の舞台」から飛び降りるブームが起こり、1694(元禄7)年から1864(元治元)までの間に、235人もの人が飛び降りたという。亡くなった人も多数出て、1872(明治5)年には、京都府から飛び降り禁止令が発令されている。飛び降りた人のほとんどは、京都に暮らす市井の人だったということであり、その理由は願掛けだったそうだ。『東海道中膝栗毛』には、飛び降りブームの由来として、足の悪くなった母の治癒を清水寺に祈願する菓子屋の息子の昔話が紹介されている。

 清水寺は778(宝亀9)年に開創された寺院で、もともと「清水の舞台」は、雅楽や能などを観音様に奉納する場所であった。その舞台は錦雲渓(きんうんけい)の急な崖のうえにあり、最長12メートルあまりもの欅の大木が舞台を支えている。台座の部分は、太い柱を縦横に釘一本も使わずに組み合わせる「懸(かけ)造り」で、張り出した舞台は4階建てのビルの高さに匹敵する。

 「清水の舞台から飛び降りる」という諺の意味は、日本人なら誰もが知っていることだろう。『日本国語大辞典』には「死んだつもりで思いきったことをする。非常に重大な決意を固める」とある。よく、思い切って高価な買い物を決断するときの例えとして用いられ、同じ意味で「清水の舞台から後ろ飛び」なんていう言い方もある。このような使い方が、いつからされるようになったのかは定かではない。『今昔物語』や『宇治拾遺物語』に収められている「検非違使忠明(けびいしただあきら)のこと」には、役人の検非違使が悪党に追いかけられ、観音様に祈りながら舞台から飛び降り、無事に逃げ去った、という場面が描かれている。このことからも、かなり古くから伝承されてきた説話といえそうだ。


本堂(国宝)は2017年初めごろから50年ぶりの檜皮葺き屋根の葺き替えで、たいへん珍しい様子が見られる。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 国営放送とは何だろう。「放送事業の一形態。国有放送ともいう。国家が直接事業を所有ないし運営する放送」(「ニッポニカ」)。そしてウィキペディアには、「国家によって直接運営されている放送局の形態を指す。また、法律や国家権力により、国民に対し強い情報統制をかけて行なわれる放送形態のことを指すこともある」との解説がある。

 国営放送は中国の「中央電視台」やロシアの「モスクワ放送」、北朝鮮の「朝鮮中央放送」などで、イギリスのBBC、韓国のKBSなどは受信料を徴収し、小さいながらもアメリカのPBSは交付金や寄付金で運営しているから、公共放送である。

 では「皆様のNHK」はどちらなのだろう。受信料を強制的に支払わされているから公共放送なのだろうが、日本人の多くは国営放送だと思っているのではないか

 事業予算・経営委員任命には国会の総務委員会や本会議での承認が必要。したがって経営・番組編集方針には時の政権の意向が反映される。総務大臣はNHKに対して国際放送の実施、放送に関する研究を命じることができるなど、国営放送といってもいいくらい、政権の意向に影響されることが多い

 さらに、安倍官邸の強い意向で据えられたNHK前会長の籾井勝人(もみい・かつと)が「領土問題では明確に政府の立場を主張する、それが国際放送の役割。政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかない」、原発問題についても「住民の不安をいたずらにかき立てないよう、公式発表をベースに伝えることを続けてほしい」と現場に対して発言したことで、政権の御用メディアという立場がより鮮明になった。

 籾井が去って上田良一(経営委員)が会長に選ばれたことで、政治主導から離れるという期待が局内や国民の間にもあったが、これまでのところ「籾井ほどではない」と言う程度の評価でしかない。

 籾井は三井物産出身、上田は三菱商事出身である。商社というのは言葉は悪いが「政商」である。商いは日本の政治の動向に大きく左右されるため、政治との結びつきはどうしても強くならざるを得ない。

 だが、1989年4月に会長に就任した元政治部出身の島桂次(しま・けいじ)は「シマゲジ」といわれ、テレビ朝日の三浦ジャガイモこと三浦甲子二(きねじ)、読売新聞のナベツネこと渡辺恒雄とともに政治家たちにズケズケものを言うメディア三羽烏といわれた。

 私は島と三浦とは何度か酒を飲んだことがあるが、豪快さでは三浦、強引さではシマゲジであった。ナベツネはその2人に比べると紳士的で押され気味であったように思う。

 島から海老沢勝二(えびさわ・かつじ)あたりまではNHK生え抜きで、時の政権の政治介入は今ほど強くなかったのではないか。

 大きく変わったのは安倍晋三が副官房長官の時である。NHKが2001年1月30日に放送したETV特集「戦争をどう裁くか」の内容について、安倍が政治圧力をかけたと大きな問題になった。安倍は否定したが、この際の弱腰なNHK側の反応を見て、安倍はNHKを御しやすいと考え、第二次政権では自分が操ることができる籾井を会長に押し込んだのであろう。

 安倍のNHK操縦はトップだけではない。現場で自分の意のままに動く人間を手なづけることも忘れなかった。

 阿比留瑠比(あひる・るい)産経新聞論説委員、山口敬之(のりゆき)元TBSワシントン支局長と並んで、安倍のポチ記者三人衆といわれるのが岩田明子NHK解説委員である。

 岩田は2002年から安倍番を務め、安倍の私邸(渋谷区富ヶ谷)近くに移り住んで、安倍の母・洋子に特に気に入られているといわれる。

 『文藝春秋』(2016年6月号)で、洋子のロングインタビューをして、その親密さをアピールした。

 プーチンロシア大統領を首相の地元・山口県に招いてトップ会談をする前に、岩田が流した「プーチン来日で北方領土返還」という“フェイクニュース”がメディアの間では大きな問題になった。

 16年9月14日放送のNHK『クローズアップ現代+』(以下、『クロ現+』)に解説委員として岩田が出演し、ウラジオストク会談で安倍首相がプーチンから、ロシアが所有している昭和天皇即位の礼の際に作られた「刀一振り」が贈呈されたというエピソードを紹介し、こう述べた。

 「プーチン大統領は『いろいろな経緯をたどって自分の手元にあったが、こうしたものは祖国へ帰るべきだ』と言った。そこにいた日本政府の関係者も『まるで日本への北方領土の返還を示唆しているようだ』と話していた」

 概ねこのようなことを言って、山口でのトップ会談で北方領土が戻ってくるかのような「空気」を増幅&拡散したのである。

 結果は、3000億円もの経済協力を約束させられただけで、北方領土の「ほ」の字もなく、日本人の期待を裏切ったのであった。

 さらに、昨年の12月18日に放送した『NHKスペシャル』では、岩田記者が安倍首相のインタビューを長々とやり、カメラが入れない首相官邸内での首相秘書官や国家安全保障局長など側近たちとの会談の模様を、音声抜きで放送したのである。

 これをもし、安倍首相が許可していたとしたら国家公務員法違反に問われかねない。また、この映像をNHK側がどこからか独自に入手していて、それを放送するに際して官邸から音声は消せと言われていたら、「放送は何人からも干渉、規律されることがない」という放送法に違反するのではないだろうか

 このことは国会でも問題になったが、政府側は「国家公務員法などに違反する行為はなかったと認識している」と言うだけだった。

 この放送に対して、ジャーナリズムがやらなければいけない「権力監視」という役割を放棄し、記者自身が官邸の広報機関になり下がっていると批判する声が多いのも致し方がないだろう。

 こうした安倍ベッタリ記者が今年3月、NHKから会長賞を与えられているのだから、NHKは安倍直営テレビ「ATT」とでも変えたらいいのではないか。

 加計(かけ)学園の獣医学部新設計画を巡り前川喜平(きへい)前文科省事務次官が内閣府から「総理の意向」などと“圧力”があり、やり取りの文書が残っていると告発した件では、読売新聞が前川前次官の風俗通いを大きく報じたことで、自らが安倍ポチ・メディアであることを内外に表明した。

 当然ながら読売新聞には多くの読者からの批判の声が寄せられ、新聞を取らないという読者も増えているそうだ。

 さらに読売は、前川の記者会見で恥の上塗りをしていた。

 読売の記者が前川に、そうした文書があると明かすのは「守秘義務違反では?」と質問したのだ。

 守秘義務の厚い壁と戦い、それを突き崩して権力の嘘を暴くことこそがジャーナリズムの役割なのに、そんなイロハのイはこの記者の頭にはこれっぽっちもないのである。

 NHKもろくなものではない。『週刊ポスト』(6/23号、以下『ポスト』)の「NHKが黒塗り報道した〈官邸の最高レベル〉への忖度」では、NHKが朝日新聞とともに前川の「内部文書はある」発言をスクープしたのはいいが、『ポスト』によると、その文書をわざわざテレビで映し出したのに、肝心の「官邸の最高レベル」という文言のところが消されていたというのだ。

 これには社内でも「内部文書の価値を無視した報道だ」と批判の声が上がった。

 NHKの中堅局員が憤懣やるかたない様子で語る。

 「文書の所々が黒塗りになっていましたが、文科省の教育課長や内閣府の審議官、参事官などの個人名が黒塗りにされていたのは理解できます。しかし、〈官邸の最高レベル〉の部分は首相の友人が理事長を務める加計学園に対し、官邸側が文科省に認可を迫ったことを窺わせる核心部分です。それがアナウンサーも一切触れずにスルーされた。“これほど内部文書の価値を無視した報道はない”と局内でも議論が起きました」

 『ポスト』によれば、今年の4月に報道局長になった小池英夫の指示だったと言われているそうだ。

 小池は政治部で長く自民党を担当していた。報道の直前、彼は「こんなものは怪文書と同じだ」と言い、その部分を黒塗りして放送するよう指示したという。

 菅官房長官の言い方と同じである。事前に官邸にお伺いを立てていたのかもしれない。さらに、NHKは前川前次官のインタビューをすでに撮り終えているのに、いまだに放送していない。

 だが、NHKの全員が安倍官邸の言いなりになっているわけではない。6月19日の『クロ現+』で、加計学園の獣医学部新設について、首相側近の萩生田(はぎうだ)光一官房副長官が文科省局長に、学部新設について「官邸は絶対やると言っている」「総理は『平成30年(2018年)4月開学』とおしりを切っていた」などと、首相の意向を伝えていた内容を記録していた文書の存在が明らかになったとスクープしたのである。

 萩生田は全否定し、松野博一(ひろかず)文科相は内容が不正確だったと萩生田に謝ったが、茶番である。これで安倍首相の指示で萩生田が動いたことが99%証明された。

 19日夜には安倍首相が記者会見して、支持率が落ちているからだろう、自らが関与していたと疑われている加計学園問題について「政府への不信を招いた」などと珍しくしおらしく謝罪した。だがそれを帳消しにするスクープをNHKが報じたのだ

 番組には社会部記者と政治部記者が出演し、社会部記者はこの文書が複数の文科省職員のパソコンに保存されていたこと、内容が正しいことを現役の文科省職員が証言していると、このスクープを裏付ける解説をした。

 一方、政治部記者は安倍官邸の代理人のように、内閣府と文科省とでやり取りはあったが、規制委員会の決定には透明性があると、弁護することに終始した。

 さぞ、官邸のポチを任じるNHKの記者たちは、安倍から叱責を受けたことであろう。

 『クロ現+』は永田町とは距離を置く社会部が中心の番組である。新聞社でも政治部を差し置いて政治問題に社会部が出張ってきたときは、世の中を動かす大ネタをつかんだ時である。

 リクルート事件が有名だ。朝日新聞の社会部が動いたが、政治部は「未公開株? そんなことどこの企業でもやっていることだ」と、政界へ広がることなどないと高をくくっていたのだ。

 NHK内部でも、官邸ベッタリの政治部を出し抜き、社会部が表に出てきたことで、朝日、東京、毎日とともに「もり・かけ」問題追及は次のステージへ移るだろう。メディアが独裁政権を倒す。そうなれば、官邸と組んだ政治部が長年牛耳ってきたNHKも大きく変わるかもしれない

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 ようやく安倍内閣の支持率が下がり始めた。森友学園、加計学園問題に共謀罪の強行採決では、いくらおとなしい日本人でも我慢の限界に来たのだろう。橋下徹でさえ、朝日新聞のインタビュー(デジタル版、6月20日)でこう答えている。「加計学園問題のメディアの追及はあっぱれだ。(中略)まさに有権者をバカにしたがゆえのしっぺ返しです」。その上、週刊誌では安倍の体調が悪いという報道が相次いでいる。火のないところに煙は立たない。政権内部の人間が漏らしているに違いない。安倍政権の崩壊が間違いなく始まっている。

第1位 「『安倍総理』深更の重大変調──『結婚30周年』記念日の夜に主治医が私邸に駆けつけた!──」(『週刊新潮』6/22号)/「党幹部も政治記者も色めき立った『総理ががんで9月退陣』怪情報」(『週刊ポスト』6/30号)
第2位 「政局のカギを握る『車いすの副総理候補』谷垣禎一『執念の復活』スクープ撮」(『週刊ポスト』6/30号)
第3位 「宇都宮マンションで『テレ朝看板アナ』をダブルドリブルした『田臥勇太』」(『週刊新潮』6/22号)

 第3位。バスケット音痴の私でも田臥勇太(たぶせ・ゆうた)の名前は知っている。日本人初のNBAプレーヤーになり、昨年スタートした日本のプロバスケットボール B.LEAGUE(Bリーグ)の「リンク栃木ブレックス」のキャプテンを務めている。
 5月27日に行なわれた決勝で「川崎ブレイブサンダース」を逆転勝ちで破り、Bリーグ初代王者に輝いたのも、田臥の力が大きかったようだ。日本に世界と伍すバスケットチームができるかどうかはまだわからないが、宇都宮市内で行なわれた優勝パレードには3万人のファンが沿道を埋めたというから、バスケ人気は出てきているようである。
 その田臥が、優勝パレードが終わっていったん自宅に帰り、その後出かけて再び戻ってきたときは美女をお持ち帰りしていたと『新潮』がグラビアとともに報じている。
 2人は部屋でしばらく過ごした後、近所のダイニングバーで食事し、戻ってきたのが午後10時過ぎ。

 「ようやく電気が点いたのは、2人が部屋に入ってから、2時間半以上が経過」(『新潮』)

 この女性、テレ朝で『スーパーJチャンネル』や『やべっちF.C.』に出演している人気女子アナ・竹内由恵(よしえ)(31)だという。
 翌朝、竹内アナは田臥が運転する車で宇都宮駅まで送ってもらっている。
 『新潮』が言うには、田臥が以前、半同棲生活を送り、結婚目前と言われていたのが、竹内アナの5年先輩で13年に退職した前田有紀(36)だったそうだ。
 『新潮』は、テレ朝の看板アナを2人も相手にしたのは、バスケでいう反則「ダブルドリブル」だと言うが、いいではないか。
 田臥はテレ朝の女子アナが好みなのだろう。田臥は『新潮』の直撃に、竹内との交際を認めているが、結婚は、最近こういう関係になったから、まったく考えていないと答えている。
 173㎝とバスケプレーヤーとしては小柄な田臥だが、これからの日本のバスケットを引っ張っていってもらわなくてはいけないリーダーである。そろそろ身を固めて指導者に専念したほうがいいのではないかと私は思うのだが、余計なおせっかいだろうな。

 第2位。さて、安倍内閣の支持率が落ち始めた。朝日新聞社が17、18日に実施した全国世論調査(電話)によると、「安倍内閣の支持率は41%で、前回(5月24、25日実施)の47%から下落した。昨年7月の参院選以降で最も低かった。不支持率は37%(前回31%)に上がった」
 また共同通信社の調査でも17、18両日に実施した全国電話世論調査によると、安倍内閣の支持率 は44.9%、前回5月から10.5ポイント急落し、不支持は43.1%で8.8ポイント上昇した。
 当然であるが、ようやく世論が実態に追い付いてきたということである。
 ポスト安倍の争いが本格化するのはこれからだが、そのキーマンになるはずが谷垣禎一(さだかず)前幹事長であった。
 谷垣は自転車事故で「頚髄(けいずい)損傷」という重大な傷を負い、手術を経てリハビリ中だが、『ポスト』がその姿をカメラに収めた。
 写真を見ると、まだ回復途上のようだが、頭はしっかりしていて、目撃したところによると、食事も右手で食べ、介護者はついていないという。
 杖を使って歩くリハビリをしているというから、政界復帰は可能ではないかと報じている。
 そうなると、谷垣が所属している宏池(こうち)会(岸田派)と合併して保守本流を再結集しようとしている麻生太郎と、谷垣はどうするのか。
 谷垣が復帰すれば、もともと安倍嫌いな谷垣だから麻生と手を組み、反安倍勢力をつくる。そうなれば、安倍一強時代は終わりを告げるが、果たしてそうなるだろうか。

 第1位。ついに「共謀罪」が強行採決された。野党の昔ながらの牛歩戦術など、かつての社会党のように多くの議員がいた時代ならともかく、政権側への蚊の一刺しにもならない。
 国会前の反対集会に来た人が「負けることに慣れ過ぎている」と言っていた。よく今の日本の“空気”を表している。
 共謀罪を戦前の治安維持法と比べる識者がいる。これに私は頷けない。スノーデンが暴露したNSA(国家安全保障局)を持ち出すまでもなく、現代はもはや超監視社会である。どこかで読んだが、歌舞伎町には何十台という監視カメラが設置され、ラブホの出入りも撮られているそうだ。
 顔認証を使って、前川喜平と入力すれば、歌舞伎町でうろうろしている前川の映像は瞬時に権力側の手に入る。GPSでその人間の行動を24時間フォローすることもできる。メール、ツイッター、Facebookはもちろん、NTTは認めないだろうが、通話記録も録音されていることは、通信関係者にはよく知られている。
 昔のように、その人間を尾行したり、周りの聞き込みなどしないで、その人間の行動や考えを、瞬時に手に入れることができる時代である。
 盗聴法、個人情報保護法、共謀罪の成立で、作家の城山三郎が心配していた戦前以上の警察国家の完成である。だから安倍は何としてでもやりたかったのだ。
 「加計学園問題で野党の追及から逃れるために早く国会を閉会したかった」などと朝日新聞(6月15日付朝刊)が社説で書いているが、事はそんな生易しいものではない。「民主主義はどこへ行くのか」(同)ではなく「かくして民主主義は死んだ」と書くべきではないか。
 世論で安倍政権を倒せないなら、嫌な言い方になるが、安倍の変調に期待するしかないのかもしれない。
 『新潮』が6月9日、安倍夫妻の結婚30周年を祝った夜、10時過ぎに富ヶ谷の私邸に戻った安倍は突然体調が悪化して、慶応病院の主治医が急遽駆けつける騒ぎになったと報じている。
 入院するほどではなかったものの、翌日にメディカルチェックを受けるため、六本木のホテルのフィットネスクラブで汗を流すこととなったという。これは首相動静に書いてあることだが、安倍首相がよくフィットネスへ行くのは、そこに主治医に来てもらって、密かに診察を受けることが多いのだ。
 9日は、菅官房長官の不手際で、前川前次官が告発した文科省にある「総理のご意向文書」で追い詰められていた安倍首相が、再調査すると表明した日である。
 『新潮』によれば、そうしたことに加えて、妻・昭恵のおかげで森友学園問題で窮地に立たされたことで、夫婦仲も険悪なまま。周囲には仲睦まじいような振りをしなければならないため、ストレスが限界まで達して、持病が悪化したのではないかと見ている。まさに前門の虎、後門の狼である。強気に見える安倍だが「夫婦はつらいよ」と頭を抱えているのかもしれない。
 『ポスト』は関西在住のジャーナリストのメルマガで、「安倍首相ががんだ」という情報が出回り、9月退陣ではないかという推測も出てきているという。
 政権末期にはさまざまな情報が飛び交うものだが、安倍もそういう時期になったのであろう。
 ところで“冷血動物”菅官房長官を定例会見でしどろもどろにさせた女性記者が判明した。「終わってみれば、全体の半分程の20分弱が彼女の質問に費やされ、菅長官の顔には『辟易』の二文字が刻まれていたのだ」(『新潮』)。この女性記者、東京新聞の美人社会部記者で、2004年に日本歯科医師連盟の闇献金事件をスクープしている。
 今は加計問題の取材班に入っていて、菅の記者会見に行って、あまりにもほかの記者たちの質問が温いので、菅に質問を浴びせたのだろう。今井照容(てるまさ)責任編集のメルマガ『文徒』によると、望月衣塑子(いそこ)記者で、県警、東京地検特捜部などを経て出産後、経済部に復帰。その後、社会部で武器輸出、軍学共同を主に取材して、私も読んだが、『武器輸出と日本企業』(角川新書)を上梓している。
 だが腹の収まらない菅は、「官邸スタッフに、警察組織を使って彼女の身辺調査をするよう命じました。(中略)取材用のハイヤーをプライベートで使っていたことはなかったかということまで調査対象になっている」(官邸関係者)。先に書いたが、こんなとんでもないことが行なわれているとすれば、言論弾圧・警察国家を象徴する重大問題である。だが、『新潮』はそれほどのこととは考えていないようだ。
 このところ自由党の森ゆうこ議員の質問がすごくいい。特に、文部科学省内で文書を流出させた職員が判明した場合、告発した人物を守るべきだと主張し、元ヤンキーの義家弘介(よしいえ・ひろゆき)文部科学副大臣の「処分の可能性あり」という発言を引き出した。「告発者を守るっていえないんですか?」と迫る森、怯えさえ見せる義家。「報復をしようという動きがあったら私は許さない」「守るために戦う」と森の決め台詞。彼女と民進党の山尾志桜里(しおり)が組んだら、安倍を崩せると思う。元クラリオンガールより何倍もいい。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 評論家の故・江藤淳氏は、1999年に『産経新聞』に寄せた文の中で、当時の都知事選を制した石原慎太郎氏を「無意識過剰」と評した。他人から何を言われようと気にしない、それが反感を買う一方で大衆の共感をも得たというのである。これはのちに『読売新聞』のコラム「編集手帳」でも取り上げられ、いまでは逆に、豊洲市場問題などで石原氏のマイナス面を語る際に欠かせないワードとなっているようだ。

 ここから来ているかどうかは不明だが、「無意識過剰」という言葉はいま、ネット上でそれなりに存在感のあるワードになっている。「自意識が薄くなんの配慮もない(そのため周囲が振り回される)」タイプの人を揶揄するときに使われる。ただ、だからこそ魅力的・個性的といえる面も改めて強調しておきたい。

 無意識過剰の表現は単なる自意識過剰のもじりなので、初出がわからないほど昔から存在する。たとえば、かつて漫画家の根本敬(ねもと・たかし)氏らは、いまやバラエティタレントの蛭子能収(えびす・よしかず)氏の特異なキャラクターを「無意識過剰」と称した(上記の石原知事うんぬん以前の話である)。「空気が読めない人」では包括できない、「無意識過剰な人」とでも表現せねばならないニュアンスが、この世にはあるものだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 「ヘイトスピーチ対策法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)」の施行から、6月3日で1年を迎えた。

 民族や宗教、障害の有無、性的指向など、特定の属性をもつ人々に対して、憎しみや偏見の言葉を投げつけるヘイトスピーチ(憎悪表現)。イギリス、フランス、ドイツなどの欧州諸国では、ヘイトスピーチを規制する法律があるが、日本では長く放置されてきた問題だ。

 だが、2013年頃から、日本でも排外主義的な市民団体が在日韓国人や朝鮮人に対して、「殺せ」「日本から叩き出せ」など、聞くに堪えない暴力的なヘイトスピーチを行なっていることがマスメディアでも報じられるようになり、多くの人が知るところとなった。

 当初、安倍政権はヘイトスピーチの規制についてあいまいな態度を見せていたが、主要国首脳会議「伊勢志摩サミット」を前に、国会で野党から問われて対策に乗り出す可能性を示唆。サミットが開催される2日前の2016年5月24日に、ヘイトスピーチ対策法が成立した(施行は6月3日)。

 対策法では、相談体制の整備、人権教育や啓発活動などに対する国の責務、地域の実情に応じて地方自治体が施策を講じることを制定。人権教育・人権啓発などを通じて、ヘイトスピーチをなくしていく取り組みを推進していこうという理念を定めている。

 その結果、排外主義的な市民グループによるデモ件数は、警察庁によると法律の施行前の1年間は61件だったのに対して、施行後は35件に減少。法律の制定が、ヘイトスピーチ抑止に一定の効果は表しているようだ。ただし、根絶には至っておらず、ヘイトスピーチと認定されないような言葉を使って、排外主義的な言動を続けている団体もある。

 法務省は、2017年2月にヘイトスピーチ対策法の基本的な解釈をまとめ、差別的発言の具体例を要望のあった約70自治体に提示。「〇〇人は殺せ」「〇〇人を海に投げ入れろ」などの脅迫的言動、ゴキブリなどの昆虫や動物に例える著しい侮辱、「祖国へ帰れ」「この町から出て行け」などの排除の扇動を挙げている。だが、こうした言葉を使っていなくても文脈や意味合いによって差別的なものを感じさせるものであれば、それはヘイトスピーチだ。

 ヘイトスピーチがなくならない原因として指摘されているのが、法律の限界だ。憲法が保障する集会、結社、表現の自由を制約する恐れから、ヘイトスピーチ対策法はあくまでも理念法という位置づけになっている。「不当な差別的言動は許されないことを宣言」しているものの違法とはしておらず、禁止規定や罰則を設けていない。そのため、いまだヘイトスピーチに傷ついている人がいるのが実情だ。

 だが、法律で規制できなくても、それぞれの自治体が条例でヘイトスピーチ対策をとることはできる。実際、動き出している自治体もあり、大阪市は2016年7月にヘイトスピーチを規制する条例を全国で初めて制定。悪質なインターネット動画の登録名(ユーザー名)の公表を行なうなどの対策を講じている。また、川崎市は公的施設でのヘイトスピーチの事前規制をするガイドラインの策定や条例を作る予定で、ヘイトスピーチの根絶に向けた啓蒙活動も行なっている。このほか、神戸市や名古屋市などでも、ヘイトスピーチ対策への条例制定の動きがあるが、あとに続く自治体が一つでも増えてほしいと思う。

 たかが「スピーチ」。たかが「デモ」と思うかもしれない。だが、歴史上最大の悲劇といわれるユダヤ人の虐殺も、最初は言葉による攻撃から始まっている。その言葉がやがて人々に憎悪の感情をうえつけ、ホロコーストにつながっていったのだ。二度と再び、あのような悲劇を起こさないためには、今、ここでヘイトスピーチに歯止めをかける必要がある。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 旅行新聞新社が主催する「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」といえば、毎年業界が注目するランキング。旅行会社の投票で選出され、「もてなし」「料理」「施設」「企画」の4つの部門、またそれらの合計ポイントによる「総合」で評価される。石川県和倉温泉の老舗旅館・加賀屋が、36年連続で1位という偉業を成し遂げたことでも有名だ。

 しかし2017年度の第42回において、その牙城はついに破られることになる。新たな「総合」1位は、福島県・母畑(ぼばた)温泉の八幡屋。部門別ではどれも1位ではなかったが、総合では前年度の9位からのジャンプアップとなった。じつはこの温泉、業界では評価が高い一方、福島の関係者でも知らないことがある。屋外プールなどの施設面もさほど珍しくなくベーシックといえるし、ビジュアルが贅沢な旅館はほかにいくらでもある。特に周囲に観光名所があるわけでもないのだ。だが、シーズンによらず一年を通して賑わい、その居心地の良さからリピーターも多いという。つまり、昔ながらの湯治場による、「無欲の勝利」なのだ。

 ちなみに、母畑温泉には「八幡太郎」こと源義家が戦(いくさ)で傷ついた愛馬を癒やした伝説が残る。八幡屋はその霊泉の上にあるとされ、ここから「八幡」の名前は来ているそうだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 いま、流通業界で「電子タグ」によるちょっとした革命が起きようとしている。

 電子タグは、小型のICチップとアンテナを内蔵したタグ(荷札)。チップには電子情報として、価格など、商品情報が一つひとつに記録されており、その情報は専用機器を使って読み取ることができる。

 流通業界は人出不足に直面し、電子タグはその救世主と位置付けられている。

 例えば、現在、スーパーの一部で始まったセルフレジでは、バーコードで1点ずつ読み取っているが、これが電子タグを導入すると、買い物カゴの中の複数の商品の価格を瞬時に読み取り、レジの画面に価格の総計が表示される。セルフレジでの処理スピードが大幅にアップする。

 コンビニ業界では、2017年4月、セブン-イレブン、ローソンなど大手5社と経済産業省が共同で2025年までに全国の5万店舗(ほぼ全店舗)超での電子タグ導入を目指すことを発表した。コンビニでもセルフレジが普及するだろう。

 電子タグ導入による効率化はレジ精算だけではない。商品の在庫管理や在庫確認といった人手がかかった作業でも、省力化の効果は大きいものがある。また、流通業界の悩みのタネだった万引き防止にも期待がかかる。

 導入に向けて課題もある。現在、電子タグ1枚当たりのコストは10~20円もする。当然、価格に上乗せされるが、低価格商品への上乗せは価格競争上、なかなかしづらいものがある。普及するにはコストダウンが求められる。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 第三者に対し、任意の人や物事に関して自分側の都合のいい印象を与えようとすること。最近、安倍首相が国会でやたら好んで口にするせいか、ちまたにもわりと流行語っぽく浸透しつつあるが、野党からは「あんな言葉、どこで覚えたんですかね?」と、失笑混じりの声が上がっているとも聞く。(実例:「1年間に14万円の報酬を受けたことはございます。しかしこれは印象操作であって、まるで私が友人のために便宜を図ったかのごとく議論をしておりますが恣意的な議論だと思います」)

 マスコミがよく利用する表現の一手段とされており、スタンダードな手法としては「断定的な論調で主張を示す」「それらの主張を一般的であるかのように連呼する」あたりが挙げられる。

 たとえば、ここ数年「(東京・渋谷区にある飲み屋街)恵○寿横丁は今、都内でもっともアツいナンパスポット」みたいなニュースをあちらこちらのメディアで目にする。しかし、実際行ってみたら“交渉”が成立する確率はごく僅かで、結果、となりのコンビニで購入した缶ビールや缶チューハイを飲みながらクダを巻いている敗残兵が入口付近に溢れかえっているだけ……なのが実状だったりする。地元民からすれば、週末の夜などは滅法うるさかったり、通行の邪魔になったり、となりのコンビニのトイレが行列になったり……と、迷惑極まりない話で、これもれっきとした「マスコミによる印象操作の弊害」なのではなかろうか?
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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