市街地のなかで、狭い敷地に木造住宅が高密度に建て込み、防災上危険な地域。「木密(もくみつ)地域」「木密」ともよばれる。公園や幅6メートル以上の道路といった空間が少なく、道路が狭く入り組んでおり、多くの老朽住宅があるため、火災時の延焼、地震時の建物倒壊、緊急車両の進入困難などで被害が甚大になるおそれがある。このことばは1970年代から都市計画の学術・政策用語として使われていたが、1995年(平成7)の阪神・淡路大震災で神戸市長田区などの木造住宅密集地域で多数の死傷者が出たことで、注目されるようになった。2022年(令和4)時点で東京都は、予想される首都直下地震では、最悪の場合、東京23区の木造住宅密集地域を中心に19万棟以上が全壊・焼失すると推定している。東京、大阪などの都市部だけでなく、過疎化が進む地方にも木密地域は分布しており、その解消は全国共通の課題である。なお、ほぼ類似した概念に、密集市街地整備法(正式名称「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」平成9年法律第49号)に基づく「地震時等に著しく危険な密集市街地」(危険密集市街地)があり、地震時での延焼の危険性や避難の困難性がとくに高い地域とされる。
第二次世界大戦による被害が少なかった地域に被災者が移り住み、戦後の復興期や高度成長期に無秩序に建築物がつくられたことが、木造住宅密集地域の生まれた原因とされる。バブル経済期以降は、とくに東京のJR山手(やまのて)線外周部に分布する地域が危険視されている。東京都は2020年に①1975年(昭和50)以前の老朽木造建物の棟数率が30%以上、②空き地や耐火建築物の面積割合(不燃領域率)が60%未満、③1ヘクタール当りの住宅戸数密度が55世帯以上、かつ共同住宅(3階以上)を除く住宅戸数密度が45世帯以上、という指標に合致する地域を木造住宅密集地域と定め、財政支援や税制優遇などで、道路や公園の整備、老朽住宅の高層耐火住宅への建て替えなどを促している。この結果、20世紀末に約2万ヘクタールあった都内の密集地域が2021年(令和3)の発表値では7686ヘクタールまで減り、とくに建物倒壊や火災危険度の高い整備地域の不燃領域率は約65%まで改善した。
一方、国土交通省の2022年度末の数値では、12都府県に約1875ヘクタール(最大は大阪府の895ヘクタール)の危険密集市街地がある。さらに2024年の能登(のと)半島地震時には、危険密集市街地の対象外だった石川県輪島(わじま)市で約200棟が延焼する大規模火災が起きるなど、地方に多くの木造住宅密集地域が点在することが明らかになり、地方を含めた木密地域の解消が課題となっている。