訪日外国人を有償で案内する通訳ガイド。外国人に日本の歴史や文化を正しく理解してもらい、日本について好印象をもったうえで自国に帰ってもらう目的で導入された。国家資格の「全国通訳案内士」と、地方自治体が独自登録する「地域通訳案内士」がある。
外国人に不正確な情報を伝えてはいけないとの判断から、1949年(昭和24)の「通訳案内士法」(昭和24年法律第210号)に基づく制度の導入以来、通訳案内士は、有資格者にのみ有償ガイドを認める業務独占資格だった。しかし外国人旅行者の急増に対応するため、規制緩和で地方独自の通訳案内士を導入。さらに2017年(平成29)には通訳案内士法を抜本改正(2018年1月施行)し、無資格者にも業務を自由化した。このため、業務独占資格であった「通訳案内士」は、資格をもたない者がこの名称や類似の名称を名のれない名称独占資格となった。とくにガイド不足の地方では地域限定の「地域通訳案内士」を創設し、それまでの通訳案内士を全国通訳案内士に改めた。
「全国通訳案内士」は、外国人旅行者に満足度の高いサービスを提供するために必要な知識や能力を有しているかどうかを判定する、観光庁の通訳案内士試験に合格したうえで、居住する都道府県に登録する必要がある。英語、中国語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、イタリア語、ポルトガル語、韓国語、タイ語の10言語についての試験のほか、歴史、地理、産業・経済・政治および文化に関する一般常識、通訳案内実務などの知識を問う筆記試験がある。これに加えて、通訳案内の実務についての口述試験がある。試験は年1回で国籍、年齢、学歴を問わず受験できる。2024年(令和6)4月時点で登録者は2万7312人。うち英語での合格者が7割強を占め、英語に次ぐ中国語での合格者は1割程度。登録者の6割弱は東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県に偏在し、60歳代以上が過半を占める。登録後、5年ごとに登録研修機関による研修を受ける義務がある。また、「地域通訳案内士」についてはTOEIC(トーイック)などで一定の語学力があると認められた人を対象に、自治体が研修などを行うことで資格を独自に付与できる。地域独自の歴史や文化を紹介しようという目的があり、特定地域に限って有償観光ガイドが可能である。また、規制緩和によって導入された旧、地域限定通訳案内士(2006年から沖縄など6道県で導入)や旧、特例通訳案内士(2012年から金沢市など全国20地域で導入)も地域通訳案内士とみなされる。2024年4月時点で、全国42地域で3782人の地域通訳案内士が登録されている。
ただし通訳案内業の自由化(2018)後も、インバウンドの急増に対し通訳案内士などのガイド育成が追いつかず、ガイドの不足や高齢化が顕著で、また、質の確保・向上、言語(英語)や地域(都市部)の偏りへの対策、安定的に就労できる環境の整備などが課題となっている。