音声言語(聴覚言語)を使う人と、手話言語(視覚言語)を使う人の間で、相互のコミュニケーションを仲介すること。また、それを行う人材。聞こえないことで不利益を被らないようにするのがその目的である。日本の手話とアメリカの手話、関東圏の手話と関西圏の手話など異なる手話言語間の意思疎通を仲介する行為や人材も含まれる。手話通訳を行う人材には、厚生労働大臣が認定する公的資格の「手話通訳士」、都道府県が認定する資格の「手話通訳者」、市町村が養成する「手話奉仕員」がいる。厚生労働省の2022年(令和4)身体障害者手帳所持者調査によると、全国に聴覚・言語障害者は約37.9万人おり、障害者の社会進出に伴って講演・イベント、研修・会議、医療・福祉関係、法廷などの場で手話通訳の需要は増えているのに対して、手話通訳が可能な人材は不足しているのが実態である。
「手話通訳士」は厚生労働省令に基づく公的資格で、同省が社会福祉法人聴力障害者情報文化センターに委託した「手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)」に合格し、同センターに手話通訳士として登録する必要がある。法律や気象・災害などの専門用語にも対応し、政見放送なども担当する。2024年10月末時点で、登録者数は4198人。なお、手話通訳は資格がなくてもできるため、手話通訳士は業務独占資格ではなく、その名称を手話通訳士しか名乗れない名称独占資格である。「手話通訳者」は、都道府県が認定した全国手話研修センターが実施する「手話通訳者全国統一試験」に合格した人を、都道府県が独自審査で認定する。2022年度に、雇用された手話通訳者は2151人。「手話奉仕員」は市区町村が実施する養成講座を修了・登録した人で、手話通訳士や手話通訳者の不足を補う役割がある。ただし、10年程度の訓練や実務経験が必要な手話通訳士とは知識・技術水準に大きな差があるとされ、手話奉仕員は生命や権利にかかわる通訳業務については避けるべきとされている。手話通訳者と手話奉仕員は、障害者総合支援法(正式名称「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」平成17年法律第123号)に基づき、認定・養成されている。
フランスで18世紀に始まった手話は、日本では1878年(明治11)に京都盲唖(もうあ)院で初めて体系的に導入され、手話通事の名称で養成が始まった。しかし1920年代以降、聞こえなくとも相手の口の動きを読んで発声訓練をする口話法に押され、長く教育現場から排除され、養成は民間サークル頼りであった。ようやく厚生省(現、厚生労働省)が1970年(昭和45)から手話奉仕員養成事業に着手し、1989年(平成1)から手話通訳士試験を開始。障害者自立支援法(現、障害者総合支援法)、障害者差別解消法(正式名称「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」平成25年法律第65号)などを整備し、障害者の生活支援の一環として手話通訳派遣を位置づけ、国、地方自治体などが講演会などへ手話通訳を派遣する動きが広がった。国際連合が2006年、手話は言語であると定義した障害者権利条約を採択したこともあり、地方自治体で、手話通訳の利用を促進する手話言語条例を制定する動きが広がった(2024年4月時点で38都道府県、494市区町村が制定)。しかし手話通訳ができる人材の不足や高齢化は深刻で、手話言語法の制定、手話通訳士の待遇改善、若手の育成などが課題となっている。