インド洋北部、スリランカの南西600キロメートルに浮かぶモルジブ諸島からなる国。正称はモルジブ共和国Republic of Maldives。モルディブ、マルディブ、マルダイブともいう。首都はマレ島のマレ。
北緯7度から赤道直下まで、南北868キロメートル、東西120キロメートルにわたって点在する1192の島より構成され、島々の周囲には巨大なサンゴ環礁が存在する。マレの年間降雨量は2473ミリメートル、熱帯気候で、1~4月に弱い乾期がみられる。有人島は187、無人島は825、リゾートホテルのみの島は180で、すべての島の面積を足し合わせると298平方キロメートルとなる。59万0297人が住み、このうちモルジブ人は39.8万人、外国人は19.2万人(2023)。モルジブは出稼ぎ労働者の受入れ国で、外国人は観光、教育、医療、建設、漁業など幅広い分野にみられる。地方行政区は政府直轄の首都マレと、環礁を単位とした20の行政区とに分けられている。大統領の任期は5年。議会は一院制で議席数は87、任期は5年。
島々の多くは標高2メートルに満たない低平な地形をなし、ヤシ林に覆われる。1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で、大統領ガユームMaumoon Abdul Gayoom(1937― )が地球温暖化に伴う海面上昇の危険について各国の支援と協力を要請した。また大統領ナシードMohamed Nasheed(1967― )は、2009年気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)で地球温暖化について警鐘を鳴らした。その後の大統領も国際会議などで積極的に発言するほか、マレ近くの海上では20万人の居住が可能な人工島の建設・整備が進んでいる。
16世紀にはポルトガル、17世紀にはオランダの植民地となり、18世紀末からイギリスの支配を受け、1887年にセイロン(現、スリランカ)の属島としてイギリス領となった。1948年セイロンの独立に伴いイギリス保護領となり、1965年に独立、国際連合(国連)に加盟した。1968年に君主制から共和制に移行。1978年、初代大統領のナシルIbrahim Nasir(1926―2008)にかわって就任したガユームが6期30年にわたって長く大統領を務めた。2008年8月には基本的人権、言論の自由、複数政党制などを初めて定めた民主的な新憲法が制定された。同年10月に新憲法下での大統領選挙が行われて、決戦投票のすえにガユームを破ったモルジブ民主党(MDP)のナシードが大統領となった。ナシードは任期途中で大統領の座をワヒードMohamed Waheed Hassan(1953― )に明け渡したが、以後は大統領の任期満了ごとに選挙が行われ、2013年にはモルジブ進歩党(PPM)のヤーミンAbdulla Yameen Abdul Gayoom(1959― )、2018年にはMDPのソーリフIbrahim Mohamed Solih(1962― )が選出され、2023年にはヤーミンにかわり立候補した人民国民会議(PNC)のムイズMohamed Muizzu(1978― )が大統領に選出されるなど、与野党が目まぐるしく入れ替わった。大統領の交代に伴い、対中国・対インド政策は大きく揺れた。
おもな産業は観光と漁業で、政府は観光開発と漁業の近代化に力を入れている。一つの島に一つのホテルを原則にハイエンドなサービスを提供していたが、2009年からそれ以外の島でもゲストハウスとよばれるホテルの建設が認められるようになった。ヨーロッパからの観光客が主であったが、2010年代以降、インドや中国からの観光客も増加している。2024年には約200万人の観光客が訪れ、約56億米ドルの観光収入を記録した。島の産物はココヤシ、パンノキの実、果実のほか、モルジブ・フィッシュとよばれるかつお節に似た魚の乾物など魚貝類が多い。主食の米や、砂糖、小麦粉、機械類は輸入に頼っている。国内総生産(名目GDP)は65億9089万米ドル、1人当り名目DGPは1万2530米ドル、財貿易額は輸出4億2100万米ドル、輸入34億9700万米ドルと、貿易収支は大幅な赤字を抱えている(2023国連統計)。おもな輸出相手国はタイ、ドイツ、イギリス、インド、フランス、輸入相手国はオマーン、インド、アラブ首長国連邦(UAE)、中国、シンガポールなどである(2022)。第二次世界大戦後には、日本漁船が多く入港するようになり、日本の水産会社が缶詰、冷凍工場を設立した。なお、南端のアドゥー島にあったイギリス海軍基地は1976年に撤去された。
住民は、マレー系のモルジブ人とドラビダ人やアラブ人の混血で構成されている。言語は、スリランカのシンハラ語から派生したとされるディベヒ語で、文字は右から左へ読む。宗教は古くは仏教であったが、のちにイスラム教が伝わり、1116年(1153年という説もある)にはイスラム王国となり、現在もイスラム教を国教としている。出生率は10‰(パーミル:人口1000人に対する1年間の出生数の比率。2021)、人口増加率は2.8%(2019~2023平均)で、0~14歳人口は26.1%(2022)と若年人口の比率が高い。義務教育は4歳から15歳までで無償である。教育施設、教員の不足などによって就学率が低かったが、国家開発計画の進行により、近年では初等教育および中等教育の就学率は100%に近い。