厚生労働大臣の免許を受けて、「保健師」の名称を用いて保健指導に従事することを業とする者(保健師助産師看護師法2条)。おもに保健所や市区町村等の行政機関、企業や学校等に所属し、その地域、職場、学校内の人々に対して、健康の保持増進を目ざす予防活動を基本として生活を支援する専門職である。さらに心身の健康に問題をもつ個人に対しては必要な保健指導、看護技術を提供する。
1937年(昭和12)、保健所法が制定され、この法律の施行規則に「保健婦」の名称が使用された。保健婦は「保健指導を行う」とされていたが、この当時、具体的な内容、方法は明確となっておらず、知識、経験にも個人差が大きいまま、また名称も「保健婦」「社会看護婦」など、統一されないまま業務を行っていた。このような背景から1941年に保健婦規則が制定され、数十種あった名称が「保健婦」と統一され、資格と業務内容が定められた。さらに、1942年に国民医療法が制定され、保健婦、助産婦、看護婦は医師、歯科医師と並び医療関係者として規定された。そして、1948年(昭和23)に制定された保健婦助産婦看護婦法により、①保健婦国家試験に合格し厚生大臣の免許を受ける、②保健婦の名称を用いる、③保健指導に従事する、④女子である、の要件を満たすことが規定された(当時の名称および規定)。その後、1993年(平成5)の法改正により、女性だけでなく男性も免許を得ることが認められ、1994年3月の国家試験において最初の「保健士」(男性)が誕生した。また、2001年(平成13)の法改正によって、男女を問わず「保健師」と名称が統一された。
1948年制定の保健婦助産婦看護婦法では、3年以上の看護婦教育を受けた者が、保健婦になるために必要な1年以上の教育課程を修めたあと、保健婦国家試験を受けることができるとされたが、1951年の法改正により、保健婦の修業年限は1年以上から6か月以上に変更された。さらに、教育の効率化が進み、1997年の厚生省通知に基づき、それまで個別に行われていた看護婦、保健婦、助産婦の教育課程で共通する部分を統合して行う統合カリキュラム教育に移行した。この結果、修業年限3年6か月以上という指定のもと、看護婦と保健婦の国家試験受験資格、または看護婦と助産婦の国家試験受験資格が得られる2種類のコースが設置され、一部の看護系大学の統合カリキュラム教育課程においては、4年間で三つの国家試験受験資格を得られる教育が行われた。しかし、2011年の保健師助産師看護師法改正では、保健師、助産師の修業年限は1年以上とすることがふさわしいとされ、4年間の大学教育で、看護師に加え、保健師と助産師の両方を同時に養成することはできなくなった。
なお、保健師助産師看護師法第7条には、「保健師になろうとする者は、保健師国家試験及び看護師国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けなければならない」と明記されており、保健師の免許を得るためには、看護師国家試験にも合格することが条件となっている。そのため、保健師国家試験に合格したとしても看護師国家試験が不合格だった場合には、保健師の免許は得られない。
保健師は、都道府県・市区町村の保健所や保健センターで働く行政保健師、企業や事業所等で働く産業保健師、学校内の保健室、健康管理センターで働く学校保健師や地域包括支援センターで働く保健師など、さまざまな場所で活動している。2022年(令和4)時点の保健師数は約6万人であり、そのうち約7割が保健所や市区町村等の行政機関に所属している。
保健所は、地域保健法に基づき都道府県・特別区・指定都市(地方自治法による)・中核市(地方自治法による)・政令市(地域保健法による)が設置する行政機関で、保健師はその自治体の職員(行政職)であり、その地域全体の健康増進、疾病予防を目ざす「公衆衛生」の専門家として働いている。具体的には難病患者や障害者の療養支援、感染症などに関する啓発や相談支援、また、その地域の健康に関する現状と課題について調査を行い、その結果をもとに健康事業を推進する活動などを行っている。新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)が流行した初期のころには、地域住民に対する相談支援等で活躍した。
保健センターは、市区町村が設置する施設で、地域住民に対し、母子保健事業や成人・老人保健事業等の総合的な保健サービスを提供する施設である。具体的には、母子保健事業として、母子健康手帳の交付や両親学級の開催、乳幼児健診(健康診査)、3歳児健診や保健指導の実施、成人・老人保健事業として健康相談、生活習慣病予防に関する健康講座、家庭訪問指導等を行っているが、地域によってサービス内容は少しずつ異なる。
産業保健師は、産業医や衛生管理者と連携して従業員の健康管理を行う。近年、メタボリックシンドロームや生活習慣病だけではなく、メンタルヘルスに対するケアも重視されている。
学校保健師は、保健室に常駐して児童・生徒や教職員の健康管理を行うが、学校保健師として働けるのは大学や専門学校、私立の小学校・中学校・高等学校のみで、公立の小学校・中学校・高等学校の保健室で働くには養護教諭の免許状が必要である。
地域包括ケアシステムの中核を担う地域包括支援センターでも保健師が活躍しており、社会福祉士、介護支援専門員(ケアマネージャー)らとともに、地域で暮らす高齢者やその家族からの相談に応じている。
超高齢社会を迎えた日本において、今後ますます人々の健康づくり、健康の保持増進が求められるなか、保健師の活動は非常に重要である。