厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者もしくは褥婦(じょくふ)に対する療養上の世話、または診療の補助を行うことを業とする者(保健師助産師看護師法5条)。保健師助産師看護師法は、看護師の定義と、看護を実践するうえで基本となる法的規定や資格を定めた法律であり、ここで示されている看護業務を看護職の「業務独占」とし、看護師業務範囲を遵守する義務規定が定められている。
保健師助産師看護師法の定義にある「療養上の世話」とは、対象となる人の状態の観察や環境整備、食事、排泄(はいせつ)、清潔、活動、睡眠や休息などの日常生活に関する援助や生活指導をさし、これらは医師の指示なく看護師の専門的な判断で独自に実施できる業務内容である。それに対し「診療の補助」は、看護師がもつ知識や技術を用いて、「医師の指示に基づき」看護師が実施することができる一定の範囲の医行為(医業)のことであり、与薬、注射等や検査に伴う採血等の医療処置をさす。医行為は、本来医師でなければ行うことはできないが(医師法17条)、例外的に上記のような一部の医行為に限り看護師が行うことが認められており、これら看護師が行うことのできる医行為のことを相対的医行為という。それに対して医師にしか行うことのできない医行為(診断、手術、処方など)は、絶対的医行為とよばれている。
近代以前においては、傷病者の世話等の看護活動はキリスト教や仏教等の宗教施設で尼僧、僧侶(そうりょ)などにより宗教の教義のもと行われたり、社会的地位の低い女性が資格もないまま行う仕事と位置づけられてきた歴史があるが、19世紀後半、イギリスのナイチンゲールにより、看護が専門教育を受けた看護師によって行われるべき職業として確立された。この功績により、ナイチンゲールは近代看護の祖に位置づけられている。
日本においては、1948年(昭和23)の保健婦助産婦看護婦法の制定により、これまで独自に教育されていた3職種(保健婦・助産婦・看護婦)とも国家資格とし、3職種の資質の向上を図るために、文部大臣(現、文部科学大臣)および厚生大臣(現、厚生労働大臣)の指定した養成機関で看護教育を修める(必要な学科を履修する)こととされた。この法律の制定により、日本における看護婦の質は向上し、看護の発展につながった。
1968年の法改正では、それまで「男子である看護人」とされてきた男性看護職を「看護士、准看護士」と改めたが、男性看護士の増加や、同じ専門職でありながら「看護婦」「看護士」と性別によって資格名称が違うことへの疑問を背景に、2001年(平成13)の法改正により名称変更が行われ、男女ともに「保健師・看護師・准看護師」となり、助産婦も「助産師」となった(ただし、助産師免許の取得は女性のみに限定されている)。法律名も保健師助産師看護師法となった。
2025年(令和7)時点で、看護師の免許を取得するためには、高等学校卒業後、大学(4年制)または短期大学や看護師養成所(3年課程)での教育課程を修了し、看護師国家試験に合格する必要がある。あるいはすでに准看護師免許をもっている場合は、免許取得後3年以上の業務経験を経たのち(高等学校卒業者は経験年数不要)、2年課程の看護師養成所での教育課程修了により看護師国家試験の受験資格が得られる。
看護教育の場の変遷をみてみると、1952年に日本で初めて高知県立女子大学で大学での看護教育が始まったが、その後1990年代まで看護系大学(看護学部がある大学)は全国に10校程度と非常に数少なく、3年課程(専門学校)での教育が主であった。1992年(平成4)に看護師等の人材確保の促進に関する法律(看護師等人材確保法)が制定され、国の財政支援もあり看護系大学の設立が急速に広がり、2024年時点では看護系大学が304校となり、反対に3年制の短期大学や専門学校の数、および募集人数は低下している。
少子高齢化、医療の高度化や専門化、社会からの要請に対応し、看護師の活動内容、活動の場や役割は拡大している。看護提供の場は、病院などの施設内から地域(訪問看護や在宅療養支援)へと変化しており、それに伴い看護師の役割も、地域社会で生活している個人や家族の生活を、他職種を含めた医療・介護のチームで支える形に拡大している。また、阪神・淡路大震災(1995)、東日本大震災(2011)等の大災害の経験や、社会全体がグローバル化している情勢から、「災害看護」「国際(異文化)看護」という新しい分野でも看護師の活躍がさらに期待されている。
また医療の高度化・専門化に伴う、より高度な看護実践者の必要性に対して、1994年に専門看護師制度、1995年に認定看護師制度、1998年に認定看護管理者制度が発足し、大学院修士課程での専門看護師教育、日本看護協会認定看護師養成課程(6か月以上)での認定看護師教育が開始された。さらに2015年からは、2年の修士課程においてナース・プラクティショナー(Nurse Practitioner:NP)教育課程を認定する制度が加わり、2019年から日本看護系大学協議会によるナースプラクティショナー(JANPU-NP)資格認定が開始されている。