地球の表面で水が占める部分。圏とは、sphere(スフィア)の訳語であり、宇宙、宇宙空間、世界(地球全体)を囲む中空の球体、丸い固形を意味する。この語から、「地球を取り巻く気体の層」を示すatmosphere(アトモスフィア:大気圏)が派生した。さらに、「地球表面の水」を示すhydrosphere(ハイドロスフィア:水圏)、「地球の地殻、地表面の固体部分」を示すlithosphere(リソスフィア/リソスフェア:岩石圏)、「リソスフィアと比較して、柔らかい球体という意味の語源をもつ」asthenosphere(アセノスフェア:マントル圏)、「生物の領域である地球の表面と下層大気」を示すbiosphere(バイオスフィア/バイオスフェア:生物圏)が派生した。すなわち、圏(スフィア)とは、地球という球体を取り囲むさまざまな環境を表す用語であり、総じて環境圏とよばれている。
水圏は、地球表面にある水をさすが、これには海水、河川水、湖沼水、地下水、氷河、永久凍土の水分、北極・南極等にある表層の氷、土壌ならびに岩石が含有する地下水、および大気中の水蒸気が含まれる。これらは液体または凍結した状態で約14億立方キロメートルが存在し、地球表面積の70%を占める。現在の水圏の大部分は、97.5%を占める海水である。大気中に存在する水蒸気の量は、約0.001%と少ないが、重要な役割を果たしている。このように、大量の水が液体、そして固体、気体として地球表面の大部分を囲み水圏を形成している。
水圏を構成する水は流動的であり、特定の場所から別の場所へ移動する「水循環」が存在する。水圏は、降水と蒸発の過程を通して、河川、湖沼など水を蓄えるさまざまなものと密接につながっている。陸域のすべての水は海洋に流れ込むようになっており、河川や運河、水路は栄養塩、塩、堆積物、汚染物質などさまざまなものを河口域および沿岸域に運び、さらに海洋へと運び込む。海洋は地球表面に届く太陽放射熱の大半を吸収する。逆に海洋は蒸発熱(潜熱)によって大気へ熱を放出する。この潜熱は大気循環を引き起こす。潜熱によって大気に水蒸気として放出された水は、その後、大気中で冷やされて凝結し、降雨となる。熱帯海域で蒸発した水蒸気の凝結による凝結熱は熱帯低気圧のエネルギー源となり、成長すると台風、ハリケーン、サイクロンとなる。
水圏の大部分を占める海洋には水循環の一つとして、海洋大循環とよばれる大規模な海流がある。海面を通して加えられる熱エネルギーや海面風などが関与して海流はおこり、地球自転の影響(コリオリの力)や摩擦力を受けながら維持されている。
すべての生命は、大気圏の数キロメートルから海洋の深海噴出孔までの水圏に依存しており、地球表面の比較的薄い範囲の生命維持層に生息している。水圏は生物圏と重なり、生物および生物がエネルギーや栄養素を得る非生物環境から構成される地球的規模の生態系である。また、海洋は、地球上で急速に循環する炭素の最大貯水池でもあり、多くの生物は、海洋に溶けた炭素を使って殻、骨格部分、サンゴ礁を形成している。
近年、人間活動に起因する海水温上昇が、サンゴの白化現象、漁獲される魚種の変化、海洋酸性化による貝殻形成の阻害など、生物の生存や生物多様性にも影響を与えている。多くの人々は水圏に対する理解を深め、たいせつにする必要がある。水圏は地球上の生命を維持する。したがって人類は水圏を維持するように生きていかなければいけない。個人や共同体の行動は、すべての水圏やそこに生息する生物を維持することに深くかかわっていることを認識することが重要である。