音が頭蓋骨(とうがいこつ)の振動を通して内耳に伝わること。骨伝導ともいう。また、そのような音の伝わる経路を用いる伝導様式をさすこともある。
ヒトは通常、空気の振動である音を、外耳道、鼓膜、耳小骨を通して内耳に伝わる「気導」で聞いているが、頭蓋骨に振動を与えると、頭蓋骨の一部である側頭骨内にある内耳に伝わり聞こえることが、500年ほど前から知られている。頭蓋骨が振動するとなぜ音が聞こえるのかは単純でなく、①外耳道に放射された音の影響、②耳小骨などの慣性、③リンパ液の慣性、④内耳の圧縮、⑤脳脊髄液からの圧の伝搬など、複数の成分が影響していると考えられている。
骨導では、通常、振動子(電気の力で振動する部品)を乳突部(耳介の後部)や前額部など頭蓋骨上に固定して音を伝える。そのため振動子には頭蓋骨を振動させるだけの相応の質量と出力が必要である。皮膚を介して頭蓋骨に伝えるので、与えられた振動は骨に伝わる前に減衰する。減衰を抑え、振動を確実に頭蓋骨に伝えるため、振動子は通常ヘッドバンドなどを用いて圧着固定する。このような固定方法は、痛みや炎症など局所のトラブルの原因となる。さらにヘッドバンドを装着することへの外見上のデメリットも存在する。また、聞こえ方は頭蓋骨を通じて左右の内耳に同じ情報が伝わるため、ステレオ(臨場感のある立体的な音)になりにくい。このようなデメリットがあり、現在普及している音響機器の多くは気導を利用したものとなっている。
骨導の聴取閾値(いきち)は、気導と比較すると、外耳や中耳の状態の影響を受けにくく、内耳とそれより中枢の機能が、より反映されやすい。聴力検査では、気導の聴取閾値が上昇(悪化)していても、骨導の聴取閾値が正常であれば、音の伝わりが悪い「伝音難聴」と考える一方、気導、骨導の聴取閾値がともに上昇(悪化)していれば、音を感じる神経の機能が悪い「感音難聴」と考え、病気の診断に役だてる。
治療がむずかしい難聴では、補聴器を用いた治療が行われる。気導と骨導の差が大きい外耳道閉鎖症などの疾患では、気導補聴器の効果は乏しい。骨導補聴器であれば固定に伴うデメリットがあるものの、聞こえを改善させることができる。さらに頭蓋骨にインプラントを植え込み、そのインプラントに補聴器を装着して直接頭蓋骨に振動を伝える植え込み(埋め込み)型骨導補聴器もある。植え込み型ではヘッドバンドによる固定が不要であり、それに関連したデメリットはなくなるが、手術が必要であるため、局所の感染リスクなどのデメリットはある。
骨導は、外耳道を開放した状態で利用でき、この特徴を生かしたスタイリッシュな骨導イヤホンが近年徐々に普及している。気導イヤホンは装着すると周囲の音が聞こえにくくなるので、たとえば歩きながら音楽を聴いていると危険である。しかし、骨導イヤホンであれば、耳をふさがないため、装着しながら周囲の音を聞くことができるというメリットがある。