相近接する不動産所有権相互間の法律関係。隣り合っている不動産が互いにその機能を十分に生かすためには、それらの所有者なり利用者が相互にその権利の行使を抑制し、あるいは相手方に協力しなければならない場合がある。このように、近接する不動産所有権(あるいは地上権・賃借権のような利用権)の相互の利用を調節することを目的として、所有権あるいは利用権の内容がある限度まで法的に制限される関係を相隣関係という。民法にかなり具体的に規定されている(209条~238条)。二、三の例をあげれば、①他人の土地を通らなければ公道に出られないような土地(袋地(ふくろじ))がある場合には、その土地を取り囲む他の土地(囲繞地(いにょうち))の所有者は通行権を認めなければならない(210条~213条)。②隣家との間に囲障(垣根・塀など)を設置して、その費用を隣家にも負担させることができる(225条~228条)。③建物を築造するには境界線から50センチメートル以上の距離をとらなければならない(234条)。このほか、水の利用に関して詳細な規定が設けられている(214条~222条)。
これらの規定は、せいぜい19世紀までの社会の状況を前提としたもので、土木・建築その他の科学技術が著しく発展し、工業化・都市化の進んだ今日からみれば時代遅れのものも多い。また、これらの規定だけでは解決できない多くの問題が実際相隣者間には発生しうるが、それらについては、相隣関係に関する規定の精神を類推し、あるいは権利濫用の法理を適用して解決することになろう。騒音、振動、煤煙(ばいえん)、臭気、日照阻害なども、新しい相隣関係の問題として解決を迫られる重大な問題となってきている。なお、1950年(昭和25)に制定された建築基準法のように、公法面から相隣関係を律しようとする法律も増えている。
近年は、相続後の未登記などを原因として所有者不明の土地が生じ、その利用が阻害される等の問題が起きている。所有者不明土地については、その円滑な利用や管理が困難であり、この問題を契機として、明治民法の規律が現代の社会経済情勢にそぐわないことが顕在化した。そこで、所有者不明土地問題に対処する方策として、2018年(平成30)「所有者不明土地法」(平成30年法律第49号)が制定された。ついで2021年(令和3)の「相続土地国庫帰属法」(令和3年法律第25号)の制定とともに行われた民法の改正では、隣地の所有者や共有者が判明しない、あるいはその所在が不明の場合にも対処できるように、相隣関係の規定の見直しを行った。具体的には、(1)隣地使用権、(2)ライフラインの設備の設置、(3)越境した竹木の枝の切除についての規定が改正された。
(1)隣地使用権
改正前民法209条1項本文は、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。」と定めていた。しかし、「隣地の使用を請求することができる」の具体的意味が判然とせず、隣地所有者が所在不明である場合等で対応が困難であった。また、障壁・建物の築造・修繕以外の目的で隣地を使用することができるかどうかが不明確で、土地の利用・処分を阻害していた。そこで、改正民法では、土地の所有者が、所定の目的のために必要な範囲内で、「隣地を使用する」権利を有する旨を明確化した(同法209条1項本文)。そして、隣地使用が認められる目的を拡充し、かつ、明確化した。すなわち、①障壁、建物その他の工作物の築造、収去、修繕、②境界標の調査・境界に関する測量、および、③越境した枝の切り取りを目的とする隣地使用が認められるとした(同法209条1項1号ないし3号)。
(2)ライフラインの設備の設置
改正前民法下においても、他人の土地や設備(導管等)を使用しなければ各種ライフラインを引き込むことができない土地の所有者は、相隣関係規定等の類推適用により、他人の土地への設備の設置や他人の設備の使用をすることができると解されていた。しかし、明文の規定がないため、設備の設置・使用に応じてもらえないときや、所有者が所在不明であるときなどには、対応が困難であった。そこで、改正民法では、土地の所有者が、他の土地に設備を設置し、または他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガスまたは水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができないときは、継続的給付を受けるために必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、または他人が所有する設備を使用することができるものとした(同法213条の2第1項)。ただし、その場合における設備の設置または使用の場所および方法は、他の土地または他人が所有する設備のために、損害がもっとも少ないものを選ばなければならないとする(同法213条の2第2項)。そして、他の土地に設備を設置し、または他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所および方法を他の土地等の所有者および他の土地を現に使用している者に通知しなければならないとした(同法213条の2第3項)。
(3)越境した竹木の枝の切除
改正前民法第233条によれば、土地の所有者は、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは自らその根を切り取ることができるが、枝が境界線を越えるときはその竹木の所有者に枝を切除させる必要があった。しかし、竹木の所有者が枝を切除しない場合には、訴えを提起し切除を命ずる判決を得て強制執行の手続をとるほかなく、竹木の枝が越境するつど、つねに訴えを提起しなければならないことから、救済を受けるための手続が過重であるとの問題があった。また、竹木が共有されている場合には、竹木の共有者が越境した枝を切除しようとしても、基本的には、変更行為として共有者全員の同意が必要(同法251条1項)と解されており、竹木の円滑な管理が阻害されていた。そこで、改正民法では、越境された土地の所有者は、竹木の所有者に枝を切除させる必要があるという原則を維持しつつ(同法233条1項)、次のいずれかの場合には、枝を自ら切り取ることができることとした(同法233条3項)。すなわち、①竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したが、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき、②竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき、③急迫の事情があるときである。また、竹木が共有物である場合には、各共有者が越境している枝を切り取ることができるものとした(同法233条2項)。