生まれて間もない人を、保ち育てる営みのこと。一般に乳幼児期に対する行為を表すことばとして使用されている。また、保育とは、乳幼児の生命を護(まも)り保ち育てる、あるいは護り保たれるなかで育つ行為のことをいう。人の育ちに際して用いられるほかのことばに「教育」があるが、「教育」が学舎における先人からの能動的な行為について使用されるのに対し、「保育」は子弟が学舎に向かうまでの期間に行われており、子どもの生命を受容する行為としてとらえられている。
「保育」という語の日本での最初の使用は、1876年(明治9)の東京女子師範学校(現、お茶の水女子大学)附属幼稚園の創設時とされている。このときの「保育」はそれまで日本に存在しなかった幼稚園という教育施設の内容や教育の方法を説明する際のことばとして用いられている。以来「保育」という用語の意味は、用いる者の価値観によってさまざまにとらえられており、その使用には時代的変遷がある。
たとえば、東京女子師範学校附属幼稚園の主事を務めた教育者の中村五六(ごろく)(1861―1946)が1906年(明治39)に著した『保育法』では、保育とは「幼児を保護養育するの意にして幼児教育の義に外ならず」とあり、保育と幼児教育は同義であるとし、幼稚園での教育を表すことばとして用いている。また第二次世界大戦後、幼稚園教育を学校教育法のなかに位置づけた坂元彦太郎(1904―1995)は、幼稚園教育を小学校課程の前段階の教育課程であると規定したうえで、両者はそれぞれ固有の課程をもつべきであるとして、幼稚園教育については「教育」ではなく「保育」を使用している。そして文部省(現、文部科学省)により1956年(昭和31)に『保育要領』が改訂されて『幼稚園教育要領』が作成されると、幼稚園教育に関しては「教育」「幼児教育」と表記された。また、「保育」ということばは、1965年に厚生省(現、厚生労働省)が作成した『保育所保育指針』において使用される用語となった。以来、「保育」は「教育」と対峙(たいじ)して使用されることがあり、幼稚園と保育所を区別する象徴的なことばとしても使用されることがある。しかし2014年(平成26)告示の「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」では「教育及び保育」という表記が多く用いられ、「教育」と「保育」の両方の用語が使用され、幼稚園と保育所の機能をあわせもつことが示されている。このように近年では、行政の法令上は、教育と保育は分けて使用されている。
しかし保育が学際的な分野であることは多くの学者が指摘するところであり、今日では教育学や心理学、社会学のほか、医学や工学など多分野において保育に関する研究が進められ、分野横断型の新たな知見が多数生成されている。