褐藻植物、ホンダワラ科の海藻をいう。一般にモ、モクとよばれる一群で、長いものでは8メートル以上になるものもある。それぞれ特徴のある気胞をもち、日本近海には約70種生育するが、うち約30種は本州を中心に分布する。南半球のオーストラリアも、日本と同様この類の多い地域である。一年生藻、多年生藻のいずれもあるが、大きさとの関連はない。なお、ホンダワラの古名としてよく知られているのがジンメソウ(神馬藻)、ナノリソ(莫告藻)である。
分類は肉眼的な形態の特徴で行われ、根、茎、葉、気胞、冠葉(気胞の先端にある小葉あるいは突起)、生殖器床などの外形が取り上げられる。植物愛好家でもこの類の分類は困難なものと考えられているが、その原因は、陸上の草木のようには接する機会が多くないこと、前記の諸器官が欠けていると同定しにくい場合があることなどによる。
生殖器床はこの類を特色づける生殖器官で、円柱状のもの、しゃもじ状に平たいもの、分岐するものなどがある。いずれも多数の生殖器巣を内蔵し、その内部に造精器、生卵器を形成する。それらから放出された精虫と卵で受精が行われ、発生体は本体となっていく。生殖器床は一般に雄は細くて長く、雌は太くて短い。しかしアカモクS. horneriのように雌でも2~3センチメートルと長いものもある。アカモクなどでは雌雄の差は明らかであるが、生殖器床が5ミリメートル以下の短い種類ではその区別は容易ではない。
ホンダワラ属のなかでは、種としてのホンダワラS. fulvellumは代表種のように思われるが、量的にはさほど多くない。ウミトラノオS. thunbergiiはこの類のなかでは高い水位(小潮時の低潮線近く)に生育し、分布も広いため、もっともみかける機会が多い。ほかにノコギリモクS. macrocarpum、オオバモクS. ringgoldianum、ヨレモクS. siliquastrumなどが一般的である(別属のジョロモクMyagropsis myagroidesも同様に多い)。またヤツマタモクS. patensもごく普通にみられ、モズク(褐藻植物)やオゴノリ(紅藻植物)の着生基盤となっている。タマハハキモクS. muticumは宮城県以南に分布するが、現在は北米太平洋岸やヨーロッパでも大繁殖している。これは、日本からカキの稚貝が輸出された際、本種の幼胚(ようはい)が付着して運ばれたためと考えられている。
現在の海藻利用の面からみると、ホンダワラ類の比重はさほど大きくない。しかし、古くから生活とのかかわりが深かったことは明らかで、いまも継承されている塩竈(しおがま)神社(宮城県)の藻塩焼(もしおやき)の神事ではホンダワラが使われている。これは、食生活上の基礎として米とともに重要であった塩を得るために、ホンダワラ類を積み重ね、海水をかけて濃縮したことに由来する神事である。また、『延喜式(えんぎしき)』のなかには、租税として指定された海藻としてナノリソの名がみえる。食用以外では、正月の鏡餅(かがみもち)にウラジロ、ユズリハなどとともにホンダワラをいっしょに飾ったり、門に掲げる風習が残されている。さらに、化学肥料が使用される以前は、ホンダワラ類は腐らせてカリ肥料とされてきた。現在でも、一部の海岸地帯では、この方法によってカリ肥料を収穫している。
藻場(もば)とは大形海藻の群落のことで、海中林ともよばれる。構成種によりコンブ類、ホンダワラ類、アマモ類(顕花植物)の三つがあり、ホンダワラ類の場合は「ガラモ場」ともよばれる。藻場は海中の小動物や魚類にとって、成育あるいは産卵の場となるので、開放的ながらも生産性の高い生物社会が形成されることとなる。藻場での漁業生産は、藻場のない所の5~17倍とも試算されており、現在では間接的な利用形態としての藻場の認識が深まるとともに、人工的な造成が試みられるに至っている。