軟体動物門腹足綱のうち、陸上にすむ貝の仲間で、巻いた殻をもつ種類に対する総称。特定の生物の系統をさす分類学上の用語ではない。海産軟体動物は少なくとも30回、独自に海から陸への上陸を果たしており、その多くが完全な陸生種で、カタツムリに該当する。代表的なグループが、アマオブネ目のヤマキサゴ科、ヤマタニシ目のヤマタニシ科やゴマガイ科、アズキガイ科など、そしてもっとも多くの系統を含むマイマイ目である。
なお、ナメクジは殻のない陸生軟体動物の総称であり、カタツムリと同じく分類学上の用語ではない。カタツムリは何度も独自に殻を失ってナメクジに進化している。これら陸生貝類のうち、論文などで発表されている記載種は世界で約2万3000種が知られており、発表に至っていない未記載種は1万から4万種いると考えられている。あらゆる分類群のなかで、もっとも多くの種が絶滅しているグループである。
もっとも一般的にみられるマイマイ目のカタツムリの場合、軟体は、背上に巻いた殻があり、その中に内臓が収まっている。体は細長く、腹側が全長にわたる足裏になっていて平たく、粘液を分泌しつつその上をはう。体表も粘液を分泌しているので湿っていて、頭部に2対の触角がある。そのうち後方の長い1対の先端に目があり、目は中にまくれ込むようにして退縮させることができる。外套膜(がいとうまく)上に血管が網目状に走り肺の役割をする。その開口部は小さい穴になっている。軟体は縮めると巻いた殻の中に全身を収めることができる。マイマイ目は殻口に蓋(ふた)はないが、ヤマタニシ目やアマオブネ目など、ほかのグループは一般に殻口に蓋がある。また、ヤマタニシ目などのグループの目は一般に触角の基部にある。
日本では約800種のカタツムリが知られている。その大半がマイマイ目で、ナンバンマイマイ科Camaenidae、とくに大形のマイマイ属Euhadraなどがもっともよく知られたカタツムリであろう。カタツムリは移動力が小さいので、わずかな地形の相違によってもきわめて多くの種に分化し、地方ごとに種類が異なっている。たとえば、九州地方ではツクシマイマイE. herklotsi、中国・四国地方ではセトウチマイマイE. subnimbosa、近畿地方ではクチベニマイマイE. amaliae、中部地方ではクロイワマイマイE. senckenbergiana、関東地方へかけてミスジマイマイE. peliomphala、ヒダリマキマイマイE. quaesita、東北地方にはムツヒダリマキマイマイE. decorata、北海道ではヒメマイマイKaraftohelix editha、エゾマイマイKaraftohelix gainesiなどが代表種である。これらのカタツムリは普通、殻の表面に1本から4本の色帯(しきたい)があるが、すべてを欠くこともあり、各標本で色帯の形式が異なる。同一種内でも環境によって形態が異なり、亜種に分化している。すなわち、同一種でも山地にすむものは形が大きくなり色は黒ずみ、平地のものは小さく色が淡い。また、離島にすむものは本土のものより小さい傾向がある。日本産のものでは中部山地のクロイワマイマイと四国のアワマイマイE. awaensisはともに殻径(殻の最大直径)60ミリメートルに達する大型種で、とくに前者は黄金色の文様がある美麗種である。オナジマイマイBradybaena similarisやウスカワマイマイ属Acustaは全国の平地に分布し、しばしば大量に発生して農作物や花畑に被害を与える。また、奄美(あまみ)群島、沖縄、小笠原(おがさわら)諸島に移入したアフリカマイマイLissachatina fulicaは卵円錐(えんすい)形で殻高(殻の前後の最大距離)100ミリメートルにもなり、農作物に大きな害を与える。
日本では小型の系統でとくに種多様性の高いカタツムリとして、キセルガイ科が広く分布し、地方によって異なる種ないし亜種に分化している。多層の細長い塔型で、殻口の内部の奥に閉弁とよばれる板状の構造があり、これで殻口を閉じることができる。
海外では西アフリカ産のメノウアフリカマイマイAchatina achatinaが世界最大とされ、殻高190ミリメートルにも及び、現地では食用とされている。平巻きの種類で大型のものとしてはフィリピンのダイオウマイマイRyssota otaheitanaが殻径100ミリメートルを超える。
日本産の種はあまり奇抜な形態の種はいないが、海外では殻口を反転させて殻頂を下に向け、逆立ちした形になる種や、殻口の付け根を狭めてラッパ状になり、櫛(くし)のような歯をつける種類、殻の表面にヤマアラシのような針を密生させる種類、殻がほどけてスプリング状になる種類などがいる。また、東南アジアのヒカリマイマイQuantula striataはかなり強く発光する。2023年には、タイで5種の発光カタツムリが発見された。
マイマイ目では一般に雌雄同体で、生殖孔は右触角の後方にあって交尾は互いに陰茎を挿入しあう。卵は石灰質の卵殻をもち、丸く、梅雨期などの湿度が高く暖かい時期に、土の中に産卵する。フィリピンなどに分布するゴシキマイマイ類などのHelicostyla属は、樹木の葉を束ねて揺り籠(かご)をつくり、その中に産卵する。卵から出てきたときはすでに親と同じ形態をしていて、卵中でもトロコフォラ期やベリジャー期はない(直接発生)。地上性のものと樹上性のものがあって、活動は夜間に盛んなものが多い。寒い時期に冬眠するときや、乾燥に耐えるときは、殻口に粘液でつくられた障子紙のような膜を張る。食物はコケなどを歯舌でこすり取って食べ、とくに菌類を好む。また、野菜やそのほかの植物の葉を食害し、紙なども好むため、ごみためにも多く集まる。少数の肉食の種類(たとえば陸貝を捕食するヤマヒタチオビ類やネジレガイ類、ミミズを捕食するヌリツヤマイマイ類など)があるが、大部分は植物食性である。なお、ヤマタニシ科やヤマキサゴ科など、ほかのグループは雌雄があるが、やはり直接発生である。
日本ではカタツムリ類は童謡や俚謡(りよう)に歌われ、俳句などにもしばしば登場し、身近な小動物として親しまれている。日本ではヨーロッパのエスカルゴのようにカタツムリ類を食用とする習慣はなく、戦前にアフリカマイマイの移入を試みたが食用とはされなかった。しかし中国や東南アジアでは、大型のナンバンマイマイ科やヤマタニシ科が食用とされてきた。陸生軟体動物は、ネズミが媒介する広東住血線虫(カントンじゅうけつせんちゅう)などの中間宿主になっていることがあるので、とくに生食は厳禁である。台湾ではアフリカマイマイの生肉を食べてこの線虫に感染した著名な実業家の一家が、偶然食べなかった一人を除き全滅するという悲劇も起きている。
日本ではカタツムリを薬として口にすることがある。アイヌも、のどの痛む病気の薬とする。カタツムリに角(つの)を出せと歌いかける童唄(わらべうた)は、日本では古くからよく親しまれている。出さなければ苦しめる、出せば楽しませるという形式で、平安時代末期の『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』には、「舞えよ、舞えよ、カタツムリ。舞わなければ、ウマの子やウシの子に蹴(け)させるぞ。踏み砕かせるぞ。ほんとうにかわいらしく舞ったなら、花園ででも遊ばせよう」という意味の歌がある。同じ形式の歌は朝鮮、中国のほかヨーロッパ各地にもあり、イギリスでは火であぶりながら歌うという。フランスでは、クリスマスの夜の害虫除(よ)けの行事の一環として、果樹を損なうカタツムリをとるために歌う。