インスリンホルモンの分泌不全や作用不足による高血糖状態をおもな症状とする代謝疾患。DMと略称される。高血糖状態とは、血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が高い状態であり、インスリンは血液中のブドウ糖を細胞内に取り込むことで血糖値を下げる働きをもつ体内で唯一のホルモンである。急激に発症する場合もあるが、多くは慢性的に進行し、血糖の管理不良状態が続けば、後述するさまざまな合併症をおこす。
約2000年前のギリシア時代に、飲む量以上に尿が出てしまい、干からびて死んでいくという病態の観察から、サイフォン(水が流れる、通過する)を意味するギリシア語のディアベテスdiabetesという病名が用いられた。その後、18世紀に尿に甘みがあることから、「蜜(みつ)のように甘い」を意味するラテン語のメリトゥスmellitusという形容詞がつけられ、diabetes mellitusとなったとされる。中国では、8世紀にすでに口渇(のどが渇くこと)、多尿に加え、尿に甘みのあることの記載があり、「消渇(しょうかつ)」とよばれていた。日本では10世紀からこの病気は知られており、明治初期には、diabetes mellitusを「蜜尿(みつにょう)病」「甘血(かんけつ)」「糖血(とうけつ)病」「糖尿病」「葡萄(ぶどう)糖尿」などと訳していた。明治後期になるとおおむね「糖尿病」に統一された。
さらに近年になって、「糖尿」ということばのもつ印象が患者に不利益をもたらしているという議論が起こり、名称変更が検討されている。
2019年(令和1)の「国民健康・栄養調査」報告では、20歳以上のうち糖尿病のリスクのある人は推計で2251万人(強く疑われる:1196万人、可能性を否定できない:1055万人)であり、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は男性19.7%、女性10.8%であった。つまり、男性では5人に1人、女性では10人に1人が、糖尿病あるいは予備軍であるということになる。
病因(危険因子)は、自己免疫(自己抗体が自身の身体を攻撃する)やウイルス感染による膵β(すいベータ)細胞の破壊によるインスリン分泌の低下・枯渇、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす素因を含む複数の遺伝因子に環境因子(過食、運動不足、肥満、ストレスなど)や加齢が加わることによるインスリン作用不足、膵臓・肝臓・内分泌などの病気、薬剤・化学物質、感染症、妊娠などがある。
糖尿病は、成因別では、(1)1型糖尿病、(2)2型糖尿病、(3)その他の特定の機序・疾患によるもの、(4)妊娠糖尿病の四つに分類される。
(1)1型糖尿病は、自己免疫性あるいは特発性にインスリンを分泌する膵β細胞が破壊され、絶対的インスリン欠乏に至るものである。
(2)2型糖尿病は、インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体でそれにインスリンの相対的不足を伴うものなどがある。
(3)その他の特定の機序・疾患によるものとは、遺伝子異常によるものと、膵疾患・肝疾患・内分泌疾患・感染症・薬剤・化学物質など他の疾患・条件に伴うものなどである。
(4)妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病には至っていない糖代謝異常のことである。
日本では、約5%が1型糖尿病、約95%が2型糖尿病といわれている。
劇症・急性発症の場合は、口渇、多飲・多尿、体重減少、疲労感、倦怠(けんたい)感などの症状がおこり、ケトアシドーシス(血中のケトン体の増加により血液が酸性に傾いた状態)、高度脱水をおこし、昏睡(こんすい)をきたす場合もある。とくに劇症1型糖尿病は、感冒様症状、腹部症状(腹痛・嘔吐(おうと)・下痢など)が最初におこり、糖尿病と気づかないうちにおよそ1週間以内に重症化し、昏睡、死に至る場合もある。
ゆっくり進行する場合、初期には症状がない場合が多いが、高血糖状態が持続し進行すると、神経障害・網膜症(失明に至る)・腎(じん)症(透析に至る)、心筋梗塞(こうそく)・脳梗塞・壊疽(えそ)(足の血管が詰まり、切断が必要になることがある)などがおこりやすくなる。
血糖コントロールの指標には、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)(基準値4.6~6.2%)、グリコアルブミン(GA)(基準値11~16%)、1,5-AG(アンヒドログルシトール)(基準値14.0μg/mL以上)などが用いられている。HbA1cは採血時から過去1~2か月間の平均血糖値を反映し、グリコアルブミンは採血時から過去2週間の平均血糖値を反映する。また、1,5-AGは糖代謝状況の急激な変化を反映し、尿糖の排泄(はいせつ)量と相関して低下する。
糖尿病の診断には、経口ブドウ糖負荷試験(75g OGTT)とHbA1cを用いる。75g OGTTは、10時間以上絶食した後、75gのブドウ糖を経口摂取し、負荷前と負荷後2時間の血糖値を測定する。
診断は、(1)早朝空腹時血糖値126mg/dL以上、(2)75g OGTTで2時間値(あるいは随時血糖値)200mg/dL以上、(3)HbA1c値が6.5%以上、(4)糖尿病の典型的な症状(口渇・多飲・多尿・体重減少など)を示した場合、(5)確実な糖尿病網膜症、のうち(1)(2)のいずれかを示し、かつ(3)~(5)のいずれかが認められる場合「糖尿病」とする。また、(1)(2)が別の日に行った検査で再確認できた場合も「糖尿病」と診断する。
食事療法、運動療法、薬物療法が行われる。
食事療法開始時の目安とするエネルギー摂取量は、目標体重[身長(m)×身長(m)]×エネルギー係数で求める(エネルギー係数は身体活動レベルと病態に基づいたエネルギー必要量、年齢などにより25~35で設定する)。指示エネルギー量の40~60%を炭水化物から、タンパク質は20%まで、残りを脂質とし、ビタミン・ミネラルも含め各栄養素がバランスよく、必要量を摂取できるようにする。極端な糖質制限食は勧められない。
運動療法は、開始前に運動療法を禁止あるいは制限したほうがよい状態かどうかを確認するメディカルチェックが必要である。運動が可能な場合には、有酸素運動とレジスタンス運動、また高齢者にはバランス運動が勧められる。
有酸素運動は酸素の供給に見合った強度の運動で、継続して行うことによりインスリン感受性が増大する(有酸素運動は中強度で週に150分かそれ以上、週に3回以上、歩行運動では1日1万歩が勧められる)。レジスタンス運動は重りや抵抗負荷に対して動作を行う運動で、筋肉量を増加し筋力を増強する効果が期待できる。バランス運動はバランス能力を向上させ、生活機能の維持・向上に有用である(レジスタンス運動は、連続しない日程で週に2~3回行うことが勧められる)。
薬物療法は、1型糖尿病では絶対的に不足しているインスリンを注射で補うインスリン療法が必要である。2型糖尿病では、病態や合併症などを考慮して各種血糖降下薬(内服または注射投与)が選択されるが、インスリン療法が必要になる場合もある。
1型糖尿病でインスリン治療をせずに放置すると、昏睡状態になり、死に至ることもある。また、病型にかかわらず、血糖管理不良状態が続くと、5年で神経症、10年で網膜症、15年で腎症を発症するといわれている。また、脂質異常症や高血圧、動脈硬化をおこし、心筋梗塞・脳梗塞・壊疽などがおこりやすくなる。
これらの予防のため、定期的に検査・診察を受け、血糖・体重・血圧をよい状態に保つこと、合併症を発症しても初期段階で治療を受けることがたいせつである。