妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常。GDMと略称される。妊娠中の明らかな糖尿病は含めない。糖尿病に至らない軽度の糖代謝異常でも、種々の周産期合併症が生じやすくなる。
妊婦に対しては、妊娠糖尿病の疑いがあるか否かを確認するためのスクリーニング検査が行われているが、スクリーニング検査で陽性となった者のみ診断試験(75g経口ブドウ糖負荷試験:75g OGTT)を受けた場合、全体の7~9%が妊娠糖尿病と診断されている(全例に75g OGTTを施行した場合は12%くらいと推定される)。危険因子は肥満、過度の体重増加、糖尿病の血縁者がいる、巨大児を出産したことがある、妊娠糖尿病だったことがある、加齢、などがある。
妊娠して、胎盤ができあがる妊娠20週ころから、胎盤から分泌されるインスリンの働きを抑えるホルモンなどの影響でインスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなる状態)となる。代償性にインスリン分泌も増えるが、インスリン抵抗性の影響のほうが強い場合や危険因子がある場合などで血糖が上昇しやすくなり、妊娠糖尿病を発症する、と考えられている。
妊娠初期と中期に行うスクリーニングで陽性の場合に75g OGTT(10時間以上絶食した後、75gのブドウ糖を経口摂取し、負荷前と負荷後1時間および2時間の血糖値を測定する)を行い、(1)空腹時血糖値92mg/dL以上、(2)1時間値180mg/dL以上、(3)2時間値153mg/dL以上のうち1点以上を満たした場合、妊娠糖尿病と診断する。血糖をモニタリングするため自己測定を行う。
最初に食事療法が行われる。食事療法は、母体や胎児に必要なエネルギー量を確保しつつ、厳格な血糖管理をするために必要である。目標体重から算出した摂取エネルギー量を基本とし、妊娠時期・体型によって付加量を変更する。糖質・タンパク質・脂質をバランスよくとるようにする。極端な糖質制限は勧められない。運動が可能な場合には運動療法も行う。目標血糖値に達しない場合はインスリン療法を開始する。
血糖管理が不十分であれば、種々の周産期のリスク(妊娠高血圧症候群、羊水過多症、過剰発育児・巨大児、新生児低血糖症・黄疸(おうだん)・呼吸障害など)がおこりやすい。また、出産後、いったん血糖値が正常化しても、一定期間後に糖尿病を発症するリスクが高い。産後1~3か月後に75g OGTTを行い再評価するとともに、食事療法・運動の継続、体重管理、定期的な検査などのフォローアップがたいせつである。