自然科学分野で画期的な成果をあげた研究者へ贈る賞。2012年、ロシアの物理学者で起業家・投資家でもあるユーリ・ミルナーYuri B. Milner(1961― )の提唱で創設された。基礎物理学、生命科学、数学の3部門がある。グーグルやフェイスブック(現、メタ・プラットフォームズ)の創業者らがつくった非営利団体ブレークスルー賞財団Breakthrough Prize Foundationが授与するため、「シリコンバレーのノーベル賞」「21世紀のノーベル賞」ともよばれる。各部門の賞金は300万ドルとノーベル賞の約3倍で、世界でもっとも高額な学術賞の一つである。受賞者を毎年1分野3人までに限定し、数学分野をもたないノーベル賞を補完する性格があり、受賞研究に関与したすべての研究者に授与されるという特徴をもつ。このため2020年の基礎物理学賞はブラックホールの初撮影に携わった世界の347人に贈られた。選考委員は過去の受賞者が務め、オンラインでだれもが候補者を指名できる。日本人受賞者には、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の山中伸弥(やまなかしんや)、ニュートリノ振動を発見した梶田隆章(かじたたかあき)、オートファジー研究の大隅良典(おおすみよしのり)、小胞体の仕組みを解明した森和俊(もりかずとし)(1958― )、睡眠研究の柳沢正史(やなぎさわまさし)(1960― )らがいる。
財団はミルナーのほか、アップル会長のレビンソンArthur D. Levinson(1950― )、グーグル創業者のブリンSergey Brin(1973― )、フェイスブック創業者のザッカーバーグMark Zuckerberg(1984― )らの出資で設立された。2012年に基礎物理学賞という名称で始まり、2013年に生命科学賞、2014年に数学賞が加わった。基礎物理学分野では、最近の発見に限らず、驚異的な物理学の成果に贈る特別賞(Special Breakthrough Prize、賞金300万ドル)が設けられ、イギリスの物理学者ホーキングらが受賞している。ほかに、若手研究者を対象に物理学と数学の2分野に贈るニューホライズン賞(New Horizons Prize、賞金10万ドル)や、イラン出身の数学者名にちなんだ若手女性数学者向けのマリアム・ミルザハニ・ニューフロンティア賞(Maryam Mirzakhani New Frontiers Prize、賞金5万ドル)がある。
なお、ノーベル賞をモデルにした最近の学術賞にはブレークスルー賞のほか、イギリスのクイーンエリザベス工学賞(2013年創設)、台湾の唐奨(とうしょう)(2014年創設)などがある。