目の前方無限の距離にある1点から出る光、すなわち平行光線が網膜より前方に結像する目の屈折状態をいう。したがって、近くの物はよく見えるが、遠くの物がぼやけて見える。調節作用を休止したとき、角膜・水晶体からなるレンズ系の焦点距離より眼軸の長さが大きすぎる状態である。
近視は概念的に、眼軸が正常より長いためにおこる軸性近視と、眼軸の長さは正常であっても角膜や水晶体の屈折力が強すぎるためにおこる屈折性近視とに分けられる。度の強い近視は軸性近視である。眼軸が長くなる理由は不明で、遺伝的素因の関与が強いと考えられている。小学校低学年から進行し始め、だいたい25、26歳くらいの身体の成長が停止するころに普通は停止する。眼軸の長さは正常では約23~24ミリメートルで、強度の近視になると30ミリメートル以上まで伸びるものもあり、このようになると眼球は突出してくる。一方で屈折性近視は、角膜のカーブが強いときや、水晶体が前方に移動した場合、または虹彩(こうさい)炎のときなどにみられることがあるが、角膜や水晶体の屈折力や眼軸の長さには個人差もあり、軸性近視か屈折性近視か区別するのはむずかしいことが多い。
近視の程度には、軽度のものから、黄斑(おうはん)部の出血や萎縮(いしゅく)を合併する病的近視といわれる状態をきたす強度のものまでいろいろある。この近視の程度を表すのにジオプトリー(D)という屈折力の単位を使い、次式で表される。
D=1/焦点距離(m)
この値が、その目を矯正するための屈折力になる(よく視力が0.2とか0.08とかいうことがあるが、これはその目の屈折力ではなく、視力を表している)。たとえば、焦点距離が50センチメートルの凹レンズで遠点(はっきり見えるもっとも遠い点)が無限遠と一致した場合は、マイナス2Dの近視となる。これに対して50センチメートルの凸レンズの場合は、プラス2Dの遠視となる。
近視も程度が進むと、いろいろの合併症を伴うようになる。中等度(マイナス3Dからマイナス6D未満)以上の近視になると、眼軸も延長しているものが多い。マイナス6D以上のものは強度近視と定義され、眼球が後方に延長してゆくため、眼底に種々の変化が現れてくる。眼底検査をすると、網膜や脈絡膜が引き伸ばされたため、眼底がトラの皮の模様のよう(豹紋(ひょうもん)状とよばれている)に見える。さらに延長されると、白い強膜までも透けて見え、このようになると網膜の機能も低下する病的近視と定義される状態になる。また、視神経の周りでは網膜や脈絡膜の変性がおこり、視神経乳頭の周りにコーヌスconusという灰白色ないし黒色の斑点がみられるようになる。さらに、眼軸が延長するために硝子体(しょうしたい)や網膜の周辺部にも変性がおこり、いわゆる飛蚊症(ひぶんしょう)を訴えたり、網膜に裂孔がおこり、これが原因で網膜剥離(はくり)をおこすこともある。このほか、黄斑部の中心に出血や円孔が発生し、突然視力が低下することもある。強度近視の矯正には眼鏡よりもコンタクトレンズのほうがよいことが多い。レーシックなどのレーザー治療で角膜曲率を変えたり眼内レンズを挿入したりする方法もある。
眼鏡を装用しないと日常生活に不便を感じる場合には、眼科医による目の検査を受け、正確な眼鏡を処方してもらってかける。前述のように、近視は近くの物はよく見えるので、程度が軽ければ不便なときや、遠方を見るときのみ装用すればよい。眼鏡の度の検査や合併症の検査などについても、少なくとも年に1回くらいの定期検査が望ましい。