眼前に装用するレンズで、「がんきょう」ともいう。正視では40歳を過ぎたころから老眼鏡が必要になるし、また日本は環境因子や遺伝因子などの関係から近視が非常に多いこともあり、日本人の半数近くが眼鏡を常用しているといわれる。いうならば、いちばん多く使われている医療器具ともいえる。
近視、遠視、乱視などの屈折異常、あるいは老視といった視力障害を補正する目的で使用する、いわゆる眼鏡(矯正眼鏡)のほかに、紫外線を防ぐ目的のサングラスをはじめ、風よけのゴーグルや、目にごみなどが入らないようにするために用いたり、それらを兼用する保護眼鏡もある。また、眼鏡に用いるレンズのほとんどはプラスチックである。ガラスについては、重さを減らしたり、表面の反射防止などのくふうもなされてきたが、どうしても壊れやすかったり重かったりするため、プラスチック製眼鏡レンズが普及してきた。さらに、プラスチックレンズの欠点であった傷がつきやすいということも、表面処理の技術進歩で解決されている。明るいところで短時間のうちにレンズに色がつき、暗いところで透明になるといった調光レンズもできている。老視いわゆる老眼の場合は、近くにピントをあわせた単焦点レンズのほかに、多重焦点レンズが用いられる。二重焦点レンズが使われることもあるが、遠用と近用のレンズの境目のない累進屈折力レンズの使用が近年は主流である。しかし、はっきり見える部分がどうしても狭く感じたり、レンズの側面を通して見たときはゆがんで見えたりすることもあるために、使う側で慣れなければならないところもある。なお、眼球に密着(コンタクト)させて目の屈折異常を矯正する、小さくて薄いレンズをコンタクトレンズという。
まず裸眼視力を測定し、引き続き検眼枠を装用してレンズをいろいろかえ、矯正視力(その人のもっともよい視力)を測定する。視力矯正に用いたレンズの「度」は、次式で定義されるジオプトリー(D)で表す。
D=1/焦点距離(m)
たとえば、焦点距離が50センチメートルのレンズは2D、25センチメートルでは4Dとなる。レンズの度を示す場合には、凸レンズにはプラス(+)の符号をつけ、凹レンズにはマイナス(-)の符号をつける。たとえば、マイナス2Dの凹レンズで遠方がよく見えれば、その人はマイナス2Dの近視ということになる。
適当な度の球面凹レンズが使われる。近視の度がそれほど強くない場合は遠いところは見えにくくても近くはよく見えるので、遠いところを見るときだけ眼鏡を使用して、普段はかけなくてもよい。大人の場合は必要に応じてかければよいが、子どもでは眼鏡をかけたがらない場合もあり、正しい指導が必要である。いちおう、裸眼視力が0.6以下のときは眼鏡を用意し、不便なときだけでも装用したほうがよい。
適当な度の球面凸レンズが使われる。遠視では物を見るとき、つねにピントを調節しているため疲れやすく、裸眼視力がよくても、眼鏡をつねに装用していたほうがよい。また、子どもは遠視が原因で弱視や斜視になる場合もあるので、その治療を含めて装用が必要になる。
円柱レンズが使われる。眼鏡で矯正できないほどの強い乱視や、さらに角膜表面の凹凸不正が原因である不正乱視では、コンタクトレンズを装用しなくてはいけない場合がある。一般には、だれでも多少の乱視はあるが、程度が強くなると、目の調節によっても眼痛、頭痛、頭重感などいわゆる眼精疲労のような症状を訴えるので、このようなときには正しい矯正が必要である。
以上3種類の眼鏡のほかに、一般によく知られているものに、老眼鏡がある。目には物を見るとき焦点をあわせるための調節という働きがある。これは毛様体筋によって水晶体の厚さを変えることにより、見ようとするものにピントをあわせるという機能である。この水晶体の弾力性が、若いときは十分あっても、中年になると年とともに失われてくる。そのため正視では近くが見えにくくなる、つまり老眼の始まりである。調節力は、物がはっきり見える範囲をレンズの度であるジオプトリーで表すが、年齢とともに小さくなり、42~43歳は3ジオプトリーといわれている。50歳で2ジオプトリー、60歳を過ぎると調節力は1ジオプトリー以下になる。必要に応じて度数を調整した眼鏡をつくり、装用するのがよい。
眼鏡レンズは屈折力によって、弱屈折、中屈折、強屈折の3種類に分けられる。屈折力が大きくなるにつれて重さは増すが、凸レンズは周辺部の厚さが薄くなり、凹レンズは中心厚が薄くなる。度数が強くなればなるほどレンズ周辺部の解像力が悪くなるので、その欠点を補うため、レンズの表面カーブに非球面を用いたレンズも開発されている。プリズムレンズは、複視(物が二重に見える状態)や斜位(左右の目が別々の方角を向いているが、物を見るときに視線が一致するよう、目の筋肉を使い自分で修正できる状態)による眼精疲労の軽減に用いられる。プリズムを用い、両眼の像の融合を図るものである。また、特殊カラーレンズに偏光レンズがあり、水面や雪面の反射光を弱めるので、釣り師やスキーヤーに最適のレンズである。
フレーム(眼鏡枠)を素材で分類すると、プラスチック枠、金属枠、天然有機材料枠、コンビネーション枠に大別される。プラスチック枠は、以前はセルロイドが主流であったが、近年はアセテート、エポキシ樹脂などに置き換わっている。金属枠には、金、プラチナ、ホワイトゴールド、金張り、金めっきなどの貴金属製枠と、チタン、サンプラチナ、ニッケルクロム、ステンレス、洋白などの卑金属製枠がある。コンビネーション枠は、金属枠にプラスチックなどの別素材を一部取り付けた枠である。金属アレルギーにより、眼鏡フレームが接触している皮膚が赤くただれたり、かゆみがおこる場合があるため、素材について確認しておくとよい。乳幼児から小児において、弱視や重い屈折異常の治療の目的で用いられる眼鏡のフレームは、顔の特徴と成長にあわせた形状のものが必要になり、軽量で堅牢性も備えることが求められる。